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副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
サックス奏者は短命?
2015年10月6日 つぶやき78
今年に限っては”残暑”という言葉はありませんでした。それはありがたいことですが、夏の猛暑の名残でしょうか、最近のスーパーでの野菜の値段の高騰には困ったものです。おやつ代わりのミニトマトが安い時の倍以上の値段でしばらくは手が出ません。

今月はちょっと風変わりでおもしろい医学論文からです。医学論文だからと言っても、堅苦しいものとは限りません。人の寿命、健康、生活の改善に関係あれば、どんなことでも研究対象となり、その結果は医学そのものですから当然論文となりえます。今回、取り上げる論文はKinra S, Okasha M. Unsafe sax: Cohort study of the impact of too much sax on the mortality of famous jazz musicians. British Medical Journal 1999; 319: 1612-3. です。1999年の論文ですからもう15年も前のものです。ただ、この論文が掲載されたBritishMedical Journal (BMJ)は一流の医学雑誌で、厳しい審査を通った論文であることは間違いありません。その内容ですが、ジャズバンドの構成員の中で木管楽器、特にサックス奏者が他のパート(ボーカル、金管楽器、ドラム、キーボード、ギター)に比べると早く亡くなるというのです。別の分析ではボーカルと比べると木管と金管楽器奏者は統計学的に有意に早く亡くなるが、他のパートの方々はそうではないという結果(寿命で言うと、木管<金管<他のパート≦ボーカルという順番です)も示しています。要は吹いて音を奏でる楽器をやっていると早々に天に召されてしまうという事なんです。釈迦に説法ですが、木管と金管楽器の違いに触れておきます。金管楽器とは演奏者の唇の振動によって発音する楽器のことです。代表的な楽器はトランペットやトロンボーン、日本語でいうところの「ラッパ」に相当する楽器ともいえます。木管楽器は金管楽器以外の管楽器の総称で空気の流れが楽器の吹き口の角に当たって音は発生させる楽器、代表的な楽器にフルートやクラリネット、オーボエ、サックスなどがあり、日本語でいうところの「笛」に相当する楽器といえます。いえいえ、フルートやサックスは金属でできていますので木管と言われてもピンと来ないというご批判はあるかと思いますが、何でできているかは実は関係ないのです。

この結果はリスペクトされなければなりません。じゃ何でこのような楽器の演奏者は早く亡くなるのか?当然それは誰もが知りたいとこです。この結果を受けて論文を書いた研究者の見解が述べられています。彼らの主張はサックスの演奏法の一つである”循環呼吸法”というのがよろしくないと言っています(これはあくまで彼らの推察から述べているのであって、この循環呼吸法がよろしくないという明らかなデータは提示されていません)。循環呼吸法とはサックスを口で吹くと同時に鼻から空気を吸い込むという特殊な呼吸法のことです。この方法の一番の長所は息継ぎなしに長いフレーズの演奏ができることにあります。演奏の途中で息継ぎをするとその音が時に耳障りになるので、これを防ぐ目的で用いられるのです。この呼吸法を行うと頬から顎にかけてずっと膨張させておくこと(つまり圧がかかった状態)になり、これが脳へ行く血流や脳から戻ってくる血流の障害となるため脳循環に支障をきたし、脳虚血や脳血栓、脳塞栓を起こしやすくするためではないか?というのが彼らの推察なのです。この呼吸法は他の吹奏楽器、例えばフルート等でも用いられるそうで、その意味で木管や金管などの吹奏楽器の奏者は短命となってしまうとの推察です。ただ、この呼吸法はクラシックの世界ではあまり推奨されていません。この呼吸法の最大の欠点は空気を吸う事と吐くことを同時行うため、楽器を吹く息の量の調整が難しくなることです。つまり音量が音楽表現のひとつの武器であるクラシック音楽には向かないのです。 逆にジャズのようにロングトーンが多く、音量がそんなに揺れない音楽には適しているといえます。

さて、この循環呼吸法が犯人かどうかは結論できないのですが、木管や金管楽器を吹いたことのある人は本当に寿命に響くのでしょうか?もし、そうだったら子供が吹奏楽をやりたい、と言ったら、親は早く死んじゃうからやめて、となりますよね。おそらく人生の一時的に若いころやっていた程度では関係ないと思います。長年渡っての慢性的な脳循環への負担が故の結果と考えるのが妥当でしょう。病気というものは交通事故とか自然災害と違って急に命を狙われてものではありません。長い時間の負の負担(よく言う言葉ですがストレスといいます)の結果です。だから、日ごろからよくないことはやめましょう、その一番の例がタバコですし、節制のない飲酒もそうです。

この研究からオーケストラのパート別の寿命ってどうなんだろうと思います。 探せばあるかもしれません。そんな雑談をあるクラシック関係の仕事している方としている時に興味ある話(都市伝説かも)を聞きました。クラリネット等のいわゆる縦笛の中で音を出すのに一番圧力がいるものはオーボエだそうです。そのためか、オーボエ奏者は目が大きい人、目が出ている人が多いのだそうですよ。 これが事実なら慢性的ストレス、やはり恐るべし。