メニュー
副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
下町ロケット
2015年11月6日 つぶやき79
“倍返しだ”で一世風靡した池井戸潤さんの直木賞受賞作の下町ロケットが日曜日の夜9時から始まりました。このドラマ面白いです。原作も結構いけます。さすがに直木作品だけあります。池井戸さんの小説はほとんどを読みましたが、私はこれとルーズベルトゲーム(これも既にドラマ化されましたね)が双璧だと思っています。池井戸作品は単純明瞭、まさに水戸黄門の世界です。ハラハラさせながらも結局ハッピーエンド、そのハッピーエンドに向かう過程が巧妙で、結果はわかっているけどやめられない魅力があります。ドラマですから必ずしも原作通りではありませんが、キーとなるところは原作に忠実に語られていると思います。小説のあらすじではこのドラマの主人公である佃航平が親から引き継いだ町工場、佃製作所が開発し、特許を取得した”バブルシステム”という名の部品がロケットの必須デバイスで、国産ロケットの打ち上げ成功をめざす大企業、帝国重工がその特許の買い取りに動くことからドラマは大きく動き出します。その特許買い取り額が20億円という町工場では想像できないくらいの巨額のオファー。 でも、元ロケット研究者であった社長の佃航平にとっては巨額の資金よりも追い続けたい夢、自分で作ったデバイスでロケットを打ちあげたい、という昔のかなわなかった夢がよみがえります。そのため巨額の資金を手に入れるかわりに部品を帝国重工に供給するという逆提案を大企業にします。そして自ら作ったキーデバイスがロケット打ち上げ成功に導くのが大筋です。
大筋を言ってしまうとその程度か、と思われるかもしれませんが、その中で様々な問題が生じ、小説をエキサイチングにしています。たとえば、巨額のオファーを断ることに多くの社員は反発します。ノーリスクで得られる大金を捨てて、社長一人の夢に自分たちの生活が犠牲になったと。会社は社長一人のものではない、そんなにいい給料をもらっていないのだから、せめてそれを還元して給与をあげるなり、賞与をはずむなりしてほしい、これももっともな意見でしょう。また、航平は別れた妻との間にできた一人娘(高校生)を育てていますが、おやじと高校生の娘という微妙な距離感を娘役の土屋太鳳が好演、ドラマの本筋ではないですが、これも見ごたえ十分です。このドラマ、主人公演じる阿部寛をはじめ、脇を高めるキャストもこれ以上ないというくらいはまっているように思えます。特に帝国重工の社長を演じるのが杉良太郎という大物俳優、出てくる場面はほんの少しですが、さすがの存在感です。実はこのドラマは計10回の放送予定だそうですが、その前半5回が小説下町ロケットの話で後の5回は全く別のストーリーとのことです。ですから、前半部分の大筋はわかっていますが、後半部分はどんな展開が待っているのか、興味はつきません。

日本の町工場の実力はしばしば話題になりますし、この小説のストーリーもあながち現実離れしているとは思えないところがドラマに引き込まれる由縁かもしれません。小さな町工場でも特定のデバイスについては大企業を凌駕できるというストーリーは医療の世界でもそうです。毎度毎度言っていますが、この”つぶやき”が世に出る前には当院のオペ室師長の検閲があります。そしていつも指摘されます、病院のHPのトップページを使っているのだから、もうちょっと病院の宣伝もしてくださいね、と。しかし、あんまり毎月のように手前味噌の宣伝をするのもいかがなものかと思っています。でも、この前それを意識して宣伝したのが4か月前でしたので、そろそろもう1回やりますか。

大阪は循環器疾患については高度な医療機関が揃う、ある意味での激戦区です。北の千里丘陵には厚生省という巨大組織をバックに控える循環器のナショナルセンターと文部省を後ろ盾にする巨大大学病院が控えます。その大学病院と当院を比べれば、稼働しているベッド数は約10倍、勤務する医師数は20倍以上です。ただ、大学病院はすべての疾患に対応できる大企業ですが、循環器というデバイスでは当院も決して引けを取っていません。心臓外科の手術成績も大学病院と変わらないと思います(本音を言えば、長く大学病院に勤めてきた私の目には本院の術者は今の大学病院と遜色ないようにみえます。でもこれは一応オフレコでよろしく)。そんな気持ちがありますので、下町ロケット、思わず共感してしまうのかもしれません。

下町ロケットの主人公が夢に投資しているように、実は当院の院長も投資しており、当院にはSWH(Sakurabashi Watanabe Hospitalの頭文字)というフットサルクラブがあり、これがなかなかのもので昨年は日本一に輝きました。サッカーほどメジャーではないのでメディアで大きく取り上げられることはほとんどありませんが、どんなものでも日本一というのは侮れません。ただ、小さな民間病院ですので、病院の収支が芳しくないとそれは賞与という形で職員の懐を直撃します。そこには下町ロケットの世界が見え隠れ、職員の声なき声は夢より私たちの生活も考えてほしいよね、と語ります。でも下町ロケットの主人公に共感すると、あながち夢もいいもんだ、と思ってしまうのはまだまだ修行が足りないのかもしれません。