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副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
神様のカルテ
2019年2月14日 つぶやき118
 アジアカップは最後まで行きましたが、残念な結果でした。あのビデオ判定のPK。意図的に手を使えばもちろんハンド、でも偶然の産物はそうでない、私が小学校で習ったハンドの定義ですが、ビデオ判定になると結局怪しきは罰す、ということでしょうか。レフリーの立場からすれば、それが一番公平なのかもしれませんが、サッカーという点の入らないゲームでのPKの重さは相当なものです。ビデオという文明の利器の導入があったのですからそれにフレキシブルなルール対応もありと、感じた次第です。

 さて、今月は医療現場を題材にした小説を取り上げます。夏川草介氏の表記タイトルの小説です。阪大病院から当院に異動して、私の通勤は車から電車とバスに変わりました。朝のラッシュではそんな気にもなれませんが、帰りは余裕がありますので通勤時間で本を読み始めました。といっても純文学のように真剣に一字一句読むのは疲れますので、そこまで真剣にならなくても筋書きがわかる推理小説かエンタメ小説限定です。本もいわゆる本屋さんに行って新刊を買うことはしません。半年に一度、本のリサイクルショップ(具体的には古本市場です)で大量に買い込んで、次に行くときはそれを下取りしてもらってまた買い込むの繰り返し。ですから本が世に出てからかなり経たないと私の手元には来ません。それでもこの5年間に東野圭吾、池井戸潤と有川浩は新刊除いてほぼ読破しました。そろそろ他に面白そうな作家を見つけないと、と思って取り上げたのが”神様のカルテ”。作家の名前は知る由もなしでしたが、タイトルがひっかかったので読んでみましたがなかなか面白い小説でした。古本市場には最初は1種類の”神様のカルテ”しかなかったのですが、そのうち”神様のカルテ2″、”神様のカルテ3″が並べられていましたので、今は3まで読みました。新刊で”神様のカルテ0″と言うのもあるらしいですが、古本市場に並ぶまで待ちたいと思います。作者の夏川草介氏の本職は医師で、物語の舞台は信州松本市の本庄病院、この病院が”365日、24時間”をかかげる地方の基幹病院。松本には本庄という地名があり、そこに実在する相澤病院が小説のモデルとされています。相澤病院は冬のオリンピックの金メダリスト小平奈緒さんの所属で注目された病院です。

 主人公は内科医、栗原一止(いちと)。彼は高知県出身で信濃大学卒のまだ医師になって5年程度の新進の消化器内科医。24時間救急診療を行うこの病院での彼の奮闘ぶりを描く医療現場が主な舞台です。これに一止の妻で理想的な伴侶のように描かれている山岳写真家の榛名(はるな)との心温まる夫婦愛、彼らが住む古いアパートである御嶽荘の一風変わった(世間離れした)住民との交流を間に挟みながら、一止と受け持ち患者との交流を基本として物語は進みます。その中に今地域医療のある早急の課題や矛盾をところどころに訴えています。物語の中身はテレビで人気あるいわゆる医療ドラマというより、お涙頂戴の人情もの、です。作者の体験がベースにあることは想像に難くないところですが、当然、脚色も入っているでしょう。少し話ができすぎているという点も否めませんが、電車の中で読むにはちょうどいい心地よさです。今回この小説を取り上げた一番の理由はこの小説が非常に平易な文章で書かれている点と文書の平易さとはうらはらに話ひとつ、ひとつに医師として共感が持てることです。私はこの小説を中学生はもちろんのこと、小学校高学年の児童でも読んで理解できると思います。

 昨今の子供たちの読書離れは無視できる問題とは思えません。今は小学校高学年となればお受験のための塾がお決まりで読書などという余裕は持てない環境になってしまいました。迷信かもしれませんが、昔から”読書量は国語力の根幹である”と言われてきました。私の経験からすればこの法則は正しいと思えます。私の周りには多数の高学歴の方々がおられますが、読書好きの国語力と英語力は半端ない、と思えるのです。私の母校の神戸にある悪名高い進学校のN高校には橋本武先生という伝説の国語教師がおられました。その授業は中学の3年間をかけて中勘助の”銀の匙”を1冊読み上げる授業で”銀の匙”授業と言われています。ちょっと極端な印象をもたれるかもしれませんが、感受性の高い中学生に与える影響は大きいと思えます。残念ながら、私は高校からの編入組でしたので、この伝説の授業は受けられませんでしたのでした。もっとも、中学受験で失敗したのでそれは自己責任なんですが。中学受験を克服して、一息ついた彼らはきっとゲームに没頭してしまうことでしょうし、頑張ったのだからそれくらいいいよね、というのが親心というものかもしれません。でも、そんな一息つける時期だからこそ、彼らの生涯という長い目で見れば、大人が何か一冊の本を与えることは必要だと思えます。四国で一番の進学校の愛光学園では最初の1年に井上靖の”しろばんば”を読ませているそうですが、これもなかなかいい選択肢だと思えます。文章は平易で中学1年生にぴったり、ただ、小説の時代背景が戦前で伊豆半島の田舎町が舞台ですので、ちょっと現代子にはその背景が理解できないかも、という心配があります。

 子供にとってつまらない小説は苦痛でしかないので、いかに楽しい題材を与えるかは大人の責任となります。私はこの”神様のカルテ”という小説を地域医療の厳しい現状を見ていただく視点で皆様に読んでいただきたいと思いますが、それ以上に子供たちが読書好きになるきっかけを作ってくれるのではないか、と期待しています。どこかの中学の国語の先生が共感してくれないかなあと思います。古本市場なら今なら1冊80円でした。親御さんにとっても子供の教育に安い投資だと思えるのです。もっとも昨今はスマホで小説が読める時代、親子でスマホもいいかもしれません。