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外科
胃カメラ(胃内視鏡)は、朝食を抜くだけで胃は空になり検査ができます。えづき(嘔吐反射)が強い方でも眠り薬の注射なりをすれば、なんとか検査を遂行することができます。
大腸内視鏡の場合は、そう簡単にはいきません。まず、下剤を飲むなどの手間のかかる前処置が必要です。腸の中が空になっていないと、内視鏡を大腸の奥に進めることは難しくなります。腸の中は光が入らないので、真っ暗です。その真っ暗な腸の中で、内視鏡は先端から光を照射し、腸の壁で反射した光を先端で見る構造です。ですから、便などが先端に付着すると真っ暗闇となり何も見えません※1。つまり、前処置なしで大腸内視鏡を挿入するのは困難です。しかし、前処置で大腸の中がきれいであっても、内視鏡が確実に挿入できる訳ではありません。
図10で示すように大腸は上腹部までお腹の中で広い範囲を走行していますが、実は膜に付着してぶら下がっています。この膜を腸間膜といい、図11に橙色で腸間膜を示します。S状結腸と横行結腸に付着する膜は長く、腸がぶらりぶらりと動く構造となっています※2。この二か所の自由に動く大腸部分が内視鏡の挿入を困難にする主な原因です。

大腸内視鏡を肛門から入れてゆくと、通常S状結腸で図12のようなループを形成します※3。この状態から内視鏡を押し込んでも黒矢印で示すように腸が伸びてループが拡大し、必ずしも奥に進んではいきません。大腸は引き伸ばされ、かなり強い痛みが出ます。腸がかなり伸ばされた状態となって(患者様はかなり痛い状態となって)内視鏡の先端が奥に進み始めることになります。痛みで大腸がきつく収縮して締まってしまった場合には、内視鏡が全く進まなくなり検査を断念することになります※4。
医師としては、『内視鏡が奥まで入らないので大腸癌があるのか、ないのか分かりません』では済まされないため、患者様が痛がっても何とか検査を進める傾向にあります。

一方、患者様の側は、検査で痛い思いを経験してしまうと「大腸検査は二度としない」、「大腸癌は怖いけれど、大腸検査はもっと怖い」と検査を拒否・躊躇されるようになります。そのような患者様に痛くないように検査すると約束し、そして検査を痛みなく無事に終えても、痛くなかった検査のことは残らず、最初の検査で痛かったことが脳裏にきつく刻まれてしまっているようです。ちなみに大腸の検査には大腸にバリウムを入れて診断するレントゲン検査(注腸検査)もありますが、最終的な診断には大腸内視鏡が必要です。
大腸内視鏡に限らず、胃内視鏡においても、検査に対する嫌悪や恐怖心のため病気の発見が遅れることになってはいけない。できるだけ楽な検査をするように念じております。

※1: 大腸の壁は薄く、無理やり内視鏡を入れてゆくと腸が破れる危険があります。
※2: 結腸は大腸と同じ意味ですが、使い分けがあり横行結腸を横行大腸とは呼びません。
※3: S状結腸では通常2種類のループができますが、実際にはループの解除が容易な図12の形となるように内視鏡を意図的に操作しています。
※4: 大腸の壁は薄いため、強い痛みが出る状態は腸が破れる危険性があります。筆者の経験では、この状態になってから痛み止めを注射しても通常は改善しません。

痛くない大腸内視鏡検査のためには、大腸をアコーディオンのように折りたたみながら入れてゆく必要があります。内視鏡を進めては大腸を短く折りたたむわけです。しかし、内視鏡を進める際には、軽く痛むことがあります。
痛みの感じ方には個人差があるのですが、徐々に痛みに敏感になり操作が難しくなります。当院では胃カメラの項(楽な内視鏡検査)で説明したオピスタンという注射薬を使用します※5。この薬は、腸の蠕動を弱めると同時に痛みを軽くする作用もあります。通常はこのオピスタンと眠り薬を注射して行います。患者様は会話できるけれども、半分寝ているといった状態で検査を行うことになり、患者様も検査医もストレスなく検査できます。
さて、大腸内視鏡をS状結腸まで挿入し、ループが形成されたならば早期にループを解除します。図13のように助手が腹壁から手のひらを使って内視鏡を押さえ、同時に内視鏡医が内視鏡を回転させながら引き抜きます。これによりS状結腸は直線化し、同時に引き抜いているにもかかわらず内視鏡の先端は奥に進みます(図14)。

動画1で提示するケースは、S状結腸が長いためループの解除が難しいケースです。内視鏡の先端を横行結腸まで進め、そこで内視鏡が抜けないように先端を屈曲部分にひっかけて保持して、回転しながら引き抜きループを解除しています(図15動画1)。ループの解除の際には内視鏡を50cmほど回転しながら引き抜いております。なお、動画は左側臥位(左側を下とした横向き)で撮影しており、そのため図14のシェーマとは内視鏡の向きが異なっております※6。
動画を見て、お腹の中でS状結腸が自由に動くことに驚かれたと思います。動画は側面像でループを前後方向に見たものであり、正面像を見るともっと大きなダイナミックな動きになります。また、ループを解除するとS状結腸が相当短く折りたたまれたこともお分かりいただけると思います。横行結腸から上行結腸に内視鏡を進める際にも、同様に横行結腸にループやたるみができます。この際も同様に、内視鏡の回転、助手の補助、体の向きを変えて(体位変換)内視鏡を進めてゆきます。

動画1
(動画をご覧いただくにはAdobe社のFlashPlayerが必要です。)

なお、オピスタンは肝臓で分解される注射薬で、お酒に強い人、弱い人があるように、人により効き目に個人差があります。内視鏡の操作の難しさにも個人差があり、年齢、性別等を考慮して薬の投与量を変えております。ベストの投与量で検査ができたと思われるケースでは、検査の終了直後に患者様が、「あれ、検査はもう終わったのですか?いつの間に検査したのですか?」とおっしゃるケースと考えています。
痛くない大腸内視鏡検査をすることが、安全であり、患者様に喜ばれ、検査医にとってもストレスにならないものなのです。

※5: 大腸内視鏡では、痛みをしっかりコントロールする必要があること、恥ずかしさといった精神的なストレスも多いため、通常オピスタンの使用量は上部内視鏡時に比べ多くなります。
※6: このケースでは幸いなことにループが形成された時点でも患者様は全く痛みを訴えられませんでした。S状結腸が長いためそれほど引き伸ばしていないものと考えます。