大腸内視鏡を肛門から入れてゆくと、通常S状結腸で図12のようなループを形成します※3。この状態から内視鏡を押し込んでも黒矢印で示すように腸が伸びてループが拡大し、必ずしも奥に進んではいきません。大腸は引き伸ばされ、かなり強い痛みが出ます。腸がかなり伸ばされた状態となって(患者様はかなり痛い状態となって)内視鏡の先端が奥に進み始めることになります。痛みで大腸がきつく収縮して締まってしまった場合には、内視鏡が全く進まなくなり検査を断念することになります※4。
医師としては、『内視鏡が奥まで入らないので大腸癌があるのか、ないのか分かりません』では済まされないため、患者様が痛がっても何とか検査を進める傾向にあります。
一方、患者様の側は、検査で痛い思いを経験してしまうと「大腸検査は二度としない」、「大腸癌は怖いけれど、大腸検査はもっと怖い」と検査を拒否・躊躇されるようになります。そのような患者様に痛くないように検査すると約束し、そして検査を痛みなく無事に終えても、痛くなかった検査のことは残らず、最初の検査で痛かったことが脳裏にきつく刻まれてしまっているようです。ちなみに大腸の検査には大腸にバリウムを入れて診断するレントゲン検査(注腸検査)もありますが、最終的な診断には大腸内視鏡が必要です。
大腸内視鏡に限らず、胃内視鏡においても、検査に対する嫌悪や恐怖心のため病気の発見が遅れることになってはいけない。できるだけ楽な検査をするように念じております。
※1: 大腸の壁は薄く、無理やり内視鏡を入れてゆくと腸が破れる危険があります。
※2: 結腸は大腸と同じ意味ですが、使い分けがあり横行結腸を横行大腸とは呼びません。
※3: S状結腸では通常2種類のループができますが、実際にはループの解除が容易な図12の形となるように内視鏡を意図的に操作しています。
※4: 大腸の壁は薄いため、強い痛みが出る状態は腸が破れる危険性があります。筆者の経験では、この状態になってから痛み止めを注射しても通常は改善しません。
動画1で提示するケースは、S状結腸が長いためループの解除が難しいケースです。内視鏡の先端を横行結腸まで進め、そこで内視鏡が抜けないように先端を屈曲部分にひっかけて保持して、回転しながら引き抜きループを解除しています(図15。動画1)。ループの解除の際には内視鏡を50cmほど回転しながら引き抜いております。なお、動画は左側臥位(左側を下とした横向き)で撮影しており、そのため図14のシェーマとは内視鏡の向きが異なっております※6。
動画を見て、お腹の中でS状結腸が自由に動くことに驚かれたと思います。動画は側面像でループを前後方向に見たものであり、正面像を見るともっと大きなダイナミックな動きになります。また、ループを解除するとS状結腸が相当短く折りたたまれたこともお分かりいただけると思います。横行結腸から上行結腸に内視鏡を進める際にも、同様に横行結腸にループやたるみができます。この際も同様に、内視鏡の回転、助手の補助、体の向きを変えて(体位変換)内視鏡を進めてゆきます。
なお、オピスタンは肝臓で分解される注射薬で、お酒に強い人、弱い人があるように、人により効き目に個人差があります。内視鏡の操作の難しさにも個人差があり、年齢、性別等を考慮して薬の投与量を変えております。ベストの投与量で検査ができたと思われるケースでは、検査の終了直後に患者様が、「あれ、検査はもう終わったのですか?いつの間に検査したのですか?」とおっしゃるケースと考えています。
痛くない大腸内視鏡検査をすることが、安全であり、患者様に喜ばれ、検査医にとってもストレスにならないものなのです。
※5: 大腸内視鏡では、痛みをしっかりコントロールする必要があること、恥ずかしさといった精神的なストレスも多いため、通常オピスタンの使用量は上部内視鏡時に比べ多くなります。
※6: このケースでは幸いなことにループが形成された時点でも患者様は全く痛みを訴えられませんでした。S状結腸が長いためそれほど引き伸ばしていないものと考えます。