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外科
胃カメラが苦しかった方、あるいは胃カメラは苦しかったと聞いたことがある方は多いと思います。一方、胃カメラがほとんど苦しくない方もおられます。その違いの理由を説明し、当院で行っている『楽な胃カメラ』の方法を説明します。
喉(のど)の奥の構造(口腔から下咽頭)は非常に個人差があります。喉の奥の部分が狭く、曲がりが強い方は、どんなに上手な医師が行っても苦しいのです。喉が狭い方は、通常咽頭部分が非常に敏感です。
図6に喉の側面のシェーマを示し、図7には実際の喉のレントゲン像を示します。気管の上に気管の蓋となる喉頭蓋があり、気管の背中側に食道があります。図6のシェーマでは食道の入口は常に開いているように見えますが、実際には図7のレントゲン像のように食道の入口はきつくしまっています。緊張などで喉に力が入ると食道の入り口はもっと強く締まり、凹の形が凸の形となります(胃カメラはもっと入りにくくなります)。

胃カメラ(内視鏡)が喉の部分を通過する際には後壁部分に接触しながら入ってゆきます。喉の奥が狭いと、カメラが敏感な前壁に触れ、嘔吐反射『えづき』が出やすくなります。特に喉頭蓋は敏感です。また口を開けたままの状態はつらいものなのですが、さらにこの状態だと唾が増えてきます。喉にスプレーした麻酔薬のため、唾を飲み込もうとしても気管に入ってむせるため、口の傍からだらだらと唾を流し出さなければなりません。
精神的な緊張やイライラは喉をさらに敏感にし、喉に力が入り(食道入口部の筋肉を収縮させ)余計に胃カメラを入りにくくなります。

図8図9は胃カメラ挿入時の二人の患者様の写真です。いずれも写真上側が体の正面方向で、写真下側が背中側(後壁)になります。写真は胃カメラの先端部分で撮影したと考えてください。図8は喉が狭いケースで、前壁と後壁の間隙が狭く、喉頭蓋が後壁に接しています。図9は、喉が広いケースで、前後壁の間に余裕があり、喉頭蓋と後壁が離れており、気管開口部(声帯)まで見えております(食道入口部はきちっと閉まっています)。
図8図9の違いを見ると、喉の奥(咽頭)の広さに、個人差があるのがお分かりいただけると思います。図8のケースでは、内視鏡を前壁や喉頭蓋に接触しないように入れるのは不可能で、えづきが出ます。これが、『胃カメラは苦しい』『胃カメラは苦しくない』の差となります。

麻酔をかけてもらって胃カメラをしてもらったので楽だったと聞かれたことがあると思います。鎮静剤(眠り薬)を注射してから行う方法で、患者様にとってはありがたいことです。当院でも同種類の薬剤を用いることはありますが、それだけでは不十分と考えております。
喉が敏感な方の場合、『眠り薬』だけで検査を行うと、『えづき』があったけれども、寝ていたため患者様ご自身がえづいたことを覚えていないことが普通です。眠り薬のみの注射では、注射により理性が働きにくくなるためか、検査中に暴れる方がおられます(が、覚えておられないのがふつうです)。検査でパニックになられるケースでは、眠り薬だけでは、薬を相当量増量しても検査をするのは難しいと経験しています。
不整脈や狭心症を心配するケースや、血をサラサラにする薬のため喉から出血しやすい場合には、『えづき』があると危険で、眠り薬だけでは不十分と考えます。
当院ではオピスタン(塩酸ペチジン)という注射薬と眠り薬を併用しております。入院患者様は全例にオピスタンを使用しております。外来患者様では、出血や不整脈のリスクのある方、また希望される患者様にも使用しております。
オピスタンは嘔吐反射や不快感を抑える作用を持つ薬剤です。中毒性はないものの、最初の2,3分間少し呼吸をするのを忘れる方があるので(呼吸抑制)、そのことをきちんと説明し(前もって説明しておくのが大事)、きちんとモニターをつけて検査します。循環器の重症例の多い病院ですが、この方法で検査を行い、のどの出血、重篤な不整脈発作、心不全等の問題が起こったことはありません。胃カメラ検査がさほど苦痛でない方も、この楽な胃カメラ検査を経験すると、従来の方法より楽なのでこの方法の検査を希望されることが多いと思います。
オピスタンは処方に手間がかかること、使用したことのない薬は使いにくいことなどの理由が考えられますが、使いなれた内視鏡医がほとんどおられないのが実情です。当院に来られる非常勤の消化器内科の先生も、当院に来て初めてオピスタンを経験されるのですが、「思ったよりも安定した状態で検査ができ、検査する方も楽ですね」との意見を伺っております。なお、外来の患者様には薬の影響が取れ、十分覚醒されてから帰宅していただいております。
(車や自転車の運転は避けていただくようお願いしております)。