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医療最前線
心房細動患者に対するアブレーション治療と医療連携
桜橋渡辺病院 心臓・血管センター 不整脈科長 井上 耕一
 心房細動は、日本人だけで数百万人が罹患しているCommon Diseaseです。高齢化社会の進行に伴い、患者数は増加してきており、臨床上の重要度が増してきています。
 心房細動の治療を行う際には、以下の3点に注意する必要があります。
 1.リズムコントロールをするかレートコントロールをするか?
 2.ワルファリンを投与するか否か?
 3.基礎疾患やリスクファクターはあるか?
 特に、リズムコントロール(心房細動を停止し予防する)とレートコントロール(洞調律化に努めず心房細動の脈拍数をコントロールする)のどちらを選ぶかは、判断が難しいことが珍しくありません。正しい判断を行うためには、それぞれの治療方針の利点・欠点や、最近の動向・治療法の進歩についての知識を持たなくてはなりません。
 近年、リズムコントロールの最終手段とでも言うべきカテーテルアブレーションが出来るようになってきました。ここでは、アブレーションを含めた、リズムコントロールについてお話していきたいと思います。
抗不整脈薬によるリズムコントロール
 心房細動のリズムコントロールとして最初に行われるのは、抗不整脈薬投与による治療です。心房細動に対するリズムコントロールのための抗不整脈薬として、VaughamWilliams分類のⅠ群薬とⅢ群薬をあげることができます。Ⅰ群薬は、心房細動を誘発する期外収縮を減らしたり心房内での伝導速度を遅くすることによって、Ⅲ群薬は心房の不応期を延長することによってリエントリーを起こりにくくし、心房細動を予防したり、停止させたりします。日本循環器学会のガイドラインにもあるように、発作性心房細動にはⅠ群薬が、持続性心房細動にはⅢ群薬が推奨されます(図1)。しかし、Ⅲ群薬は、時に重篤な心外副作用や致死的心室性不整脈の合併が見られる、比較的ハイリスクな薬です。使用は専門医に任せたほうが良いかもしれません。
図1 孤立性心房細動に対する治療戦略
孤立性心房細動に対する治療戦略のフロー図

発作性とは7日以内に自然停止するもの。持続性はそれ以上持続するものを指す。
Ablate&Pace=房室接合部アブレーション+心室ペーシング。
*:保険適用なし

 太線で示された矢印が第一選択。持続性の場合の第一選択は心拍数調節であるが、保険適応の範囲を超えて除細動を追求する場合には、破線以下の薬剤が候補となる(これらの薬剤には徐拍作用があるが、心拍数コントロールのための薬剤と併用することもある)。心拍数調節が十分に達成できないか、さらなる症状軽減が必要なために除細動を追求する場合にも、同様に破線以下の薬剤が候補となりうる。このいずれかの方法が、あるいはその両者が無効なときに、細い矢印に沿って第二選択肢として非薬物療法である電気ショック、肺静脈アブレーション、房室接合部アブレーションなどが考慮される。
 なお持続性でも比較的持続期間の短い例ではNaチャネル遮断薬を最初に試すこともあり、その選択肢を破線矢印で示したが、発作性に対して心拍数調節や破線以下の薬剤を第一選択として使うことはない。発作性心房細動に対する第一選択薬が無効な場合の第2選択肢を限定することはしないが、手技に熟練した施設では肺静脈アブレーションが有力候補となる。

*脚注:前ガイドラインで心機能正常例での第一選択薬としていた5種類のSlow kineticのNaチャネル遮断薬の中から、現在、将来とも保険適用となる見込みのない薬剤(ピルメノール)を除外し、逆にACC/AHA/ESCガイドラインでも第一選択薬とされているプロパフェノンを加えた。プロパフェノンは実験的にはSlow kineticではなくintermediateとされるが、Ito(一過性K電流)やIku(r 遅延整流K電流の特に速い成分)などを抑制する作用も知られており、臨床的にも他のintermediate kineticの薬剤と比較して有効性/安全性についての十分なエビデンスがある(J-RHYTHM試験での使用実績もある)ことから、敢えて他のslow kineticのNaチャネル遮断薬と同列に扱うことにした。一方、アミオダロン(経口)、ソタロールは心房細動への適応拡大に向けた手続きが進行中であるためリストに残した。

(Circulation Journal Vol.72, Suppl.IV, 2008)
抗不整脈薬の選択
 本邦のガイドラインで推奨されているⅠ群薬は、5剤(ピルジカイニド、シベンゾリン、プロパフェノン、ジソピラミド、フレカイニド)あり、それぞれ特徴を持っています。これらの特徴をよく把握したうえで用いることが必要です。特に、専門医以外の先生方は、薬剤の長所と短所をきちんと把握した1剤か2剤に絞って処方を行い、使い慣れた薬をつくっておくことが大事であると考えています。薬剤選択は心房細動の病態にもとづくことが重要です。心房細動には、交感神経が興奮した時に起こる昼間優位型と、副交感神経が興奮した時におこる夜間優位型、両方が認められる混合型に大別することができます。夜間型の治療には、ムスカリン(M2)受容体拮抗作用のあるものが好ましいと考えられています。しかし、心臓選択性に乏しい拮抗薬だと、口渇や排尿障害などの副作用が出やすくなるので注意が必要です。
 排出経路もよく把握しておかなければいけません。おもに腎排出と肝排出に分かれますが、どちらかの排出経路に偏っている場合は、血中濃度が上昇して合併症を引き起こすリスクがありますので、バランスの良い排出路を持つことは抗不整脈薬の利点の一つとなります。
 シベンゾリンは、ガイドラインにも記載されているように高い洞調律維持効果があり、心臓選択的なM2受容体拮抗作用があるため副交感神経優位の夜間型にも有効であり、さらに腎排出と肝排出のバランスが良い(腎70%、肝30%)ため、第一選択薬として用いるのに適している薬剤の一つだと考えられます。
 いずれの薬剤を用いるにしても、腎機能や肝機能をチェックした上で少量より投与開始すること、QT延長等の副作用がみられないことを確認して増量していくこと、過量とならないように常に心掛け、チェックを怠らないことが、大切であることを強調させていただきます。
抗不整脈薬が効かない場合にどうするか?
 リズムコントロールは若年で、症状が強く、社会的にも活動度が高い症例に対し選択され、うまくいけば発作や症状が消失し、患者の満足度の大変高い治療となります。しかし、残念ながら、抗不整脈薬の有効性は4~50%程度であること、根治に至るわけではなく内服し続けなくてはならないこと、初めは有効でも経過中に効かなくなってしまうこと、致死的不整脈等の合併症が起こりうることなどの理由により、コントロールが難しいことがしばしばあります。また、大規模臨床試験から必ずしも予後は改善されないことが明らかになっています。リズムコントロールがうまく行かない場合、レートコントロールをめざす方針となっています。しかし、発作性心房細動では、症状のコントロールがつかない場合がほとんどであり、洞機能不全の合併(徐脈頻脈症候群)で、レートコントロールの薬剤が投与しがたいこともしばしば経験します。活動性も高い若年者では、社会的な不利益を被ることが多いのも現実です。長い間、心房細動を根治することは不可能と考えられていました。しかし、近年、左心房-肺静脈接合部の異常がその大きな原因であることが明らかになり、カテーテルアブレーションで根治を目指すことができるようになってきました。
カテーテルアブレーションによるリズムコントロール
 1998年に、心房細動を誘発する引き金(トリガー)となる期外収縮が肺静脈からみられるというエポックメイキングな論文がボルドー大学から発表され、心房細動の根治を目標にアブレーションが広がりました。その後、肺静脈と心房の接合部にリエントリー回路や、心房細動の発症に影響を与える心臓神経叢が存在することがわかりました(図2)。現在は、肺静脈の周りを取り囲むように高周波通電を行い、肺静脈を電気的に隔離する(肺静脈と左心房が電気的に行き来できないようにする)という手法が用いられています(図2図3)。肺静脈隔離を行ったあとにも不整脈基質が残存していると判断された場合は、その病態に応じて線状焼灼や分裂電位に対する焼灼、上大静脈の電気的隔離等を行います。また、CARTOシステムやEnSiteシステムなど、心臓の位置情報と電気的情報を3次元的に表示する機器が開発され、アブレーションの成績向上につながっています(図4図5)。
図2 心房細動発症のメカニズム
心房細動発症のメカニズムのモデル図  心房細動は肺静脈内を主とした期外収縮(赤の星印)が引き金となり、肺静脈周囲を主とした電気の旋回路(リエントリー回路、赤矢印)で不規則に電気信号が旋回を始める。心臓神経叢(黄色)の異常興奮時には特に起こりやすくなる。これら不整脈基質の多くは肺静脈の周囲にあるため、肺静脈周囲を円周状に通電し焼灼する(青色)ことで、心房細動を治療しうる。
図3 カテーテルアブレーション時の心内心電図の例
カテーテルアブレーション時の心内心電図の例  通電により、上下の肺静脈電位が消失している。通電により肺静脈が電気的に隔離されたことを示している。
図4 CARTOシステムを用いた肺静脈隔離の例
CARTOシステムを用いた肺静脈隔離の図
右: 背側より左心房をみた図。CT画像をシステムに取り込むことで、解剖学的位置関係を容易に把握できる。赤い点は通電部位を示している。
左: 左の上下肺静脈を内側からのぞくような方向から見ている。肺静脈の周囲を円周状に通電している。
図5 ENSITEシステムを用いた分裂電位の解析例
ENSITEシステムを用いた分裂電位の解析の例
左: 腹側より左心房を見た図。分裂電位は心房細動の維持に関与していると考えられる。分裂の度合いが強いところは白~赤色で示されている。この症例は左心房前面に強い分裂電位を認め、同部位への通電で心房細動は停止した。
右: 背側から左心房を見た図。灰色の部位は電位がないことを示しており、肺静脈の電位は通電で消失していることが確認できる。
カテーテルアブレーション治療の適応
 2006年の日本循環器学会のガイドラインを表に示します(表1)。 発作性心房細動はクラスⅡaの、慢性心房細動はクラスⅡbの適応です。ガイドラインが示された2006年以降も、心房細動アブレーションの有効性を示すエビデンスが蓄積されており、今後、適応はさらに広がっていくと考えられます。
 現在時点では、若年の症例と、発作性・慢性にかかわらず薬剤で満足のいくコントロールが得られず困っている症例が、アブレーションの施行の適応であると考えています。
 アブレーション治療の長所と短所を示します(表2)。これらの長所短所を、患者様自身がきちんと理解していることが、アブレーション治療を受けていただくための必要条件であると考えています。
表1 洞調律維持目的のアブレーションの適応
クラスⅠ なし
クラスⅡa
  1. 自覚症状またはQOLの低下を伴い、薬物治療抵抗性または副作用のために薬物の使用が困難な再発性発作性心房細動に対するカテーテルアブレーション(エビデンスレベルB)
  2. パイロット、自衛官等の職業上の理由のために施行されるカテーテルアブレーション
  3. 開胸的外科手術に付随して行われるMaze手術
クラスⅡb
  1. 自覚症状またはQOLの低下を伴い、薬物治療抵抗性の慢性心房細動に対するカテーテルアブレーション(エビデンスレベルC)
クラスⅢ
  1. 自覚症状がなく、薬物治療の有効な慢性心房細動に対するカテーテルアブレーション
(Circulation Journal Vol.72, Suppl.IV, 2008)
表2 アブレーションの長所と短所
長 所
  1. 心房細動のリズムコントロール治療で最も有効性が高いこと。
  2. 心房細動の完治を目指せる唯一の治療法である。
短 所
  1. 20~30%の症例では治療を2回以上受ける必要があること。
  2. 複数回受けても10%程度の患者で心房細動が残存すること。
  3. 局所麻酔・通電時・術後の安静時の苦痛、極めてまれに重篤な合併症があること。
  4. 5日間の入院が必要であること。
  5. 10年の歴史しかない治療であり長期成績はわかっていないこと。
カテーテルアブレーション治療の実際
 心房細動に対するアブレーションは、心房中隔穿刺を行う必要があること、肺静脈隔離が技術的に難しいことから、施行できる施設が限られています。また、施設間で経験や術時間、治療成績に大きな差があることが知られており、どこの施設で受けるかということが大変重要です。
 アブレーションはカテーテルを用いた治療ですので局所麻酔で行います。両大腿静脈と右肘静脈から計4~5本のカテーテルを心臓に挿入します。そのうち2~3本はブロッケンブロー法で左心房にアプローチし、カテーテルを挿入します。電気生理学的検査を行った後、アブレーションを開始します(図6)。術時間は1.5~3時間程度です。通電中は場所によって痛みがありますので、鎮静剤を注射しながら行います。術後は、カテーテルを抜去して病室に帰りますが、出血の予防のため6時間は上向きに寝た状態を保持していただきます。治療後しばらくは心房細動再発が出やすいため、術後3日間の経過観察をして退院となります。
 当院は、アブレーション治療を積極的に行っており、年間約400例の治療を行っています。当科のアブレーションの特徴は、心房細動の治療が全体の70%を占めていることです。一般的な治療時間は4~5時間程度ですが、当院では1.5~3時間程度です。また、CARTOシステムやEnSiteシステムなど最新鋭の機器を常備してアブレーションを行っております(図4図5)。
図6 カテーテルアブレーションの様子
カテーテル中の様子と電極カテーテルを挿入した写真
カテーテル中の様子。局所麻酔で行われる。医師2名以上を含む計7名のスタッフで行われる。
電極カテーテルを挿入した図。通電用のカテーテルを含め計5本のカテーテルが静脈経由で左右の心房まで挿入されている。先端が丸まったカテーテルは肺静脈専用のもので、それぞれ左上下肺静脈に挿入されている。
カテーテルアブレーション成績と合併症
 アブレーション直後の一時的に再発が起こりやすい時期を除くと、発作性心房細動で約80%、慢性心房細動で約60%の症例で心房細動が認められなくなります。再発の原因の多くはアブレーションの通電部位が治癒して再び電気が流れるようになってしまうことですので、2回目の治療を受けることをお勧めしています。2回目を受け、治癒部に再通電することで、発作性心房細動では約90%の症例で心房細動が認められなくなります。慢性心房細動でも、まれに発作性心房細動を起こすだけになる症例を含めると、90%近くの症例で洞調律が維持できます。ただ、左房が拡大してしまっている症例、10年以上にわたって心房細動が持続している症例などでは、アブレーションの有効性は低くなってしまいます。
 心房細動アブレーションの合併症は、いまだ解決されない問題です。一過性の発熱やカテーテル挿入部の血腫など、ほとんどは軽症の合併症ですが、極めて稀に(0.5%以下)、脳梗塞や心タンポナーデなどの重症合併症が認められます。海外からは0.1%以下ですが死亡例も報告されており、留意しておく必要があります。
病診連携について-専門医への紹介が好ましい場合-
 心房細動患者で、基礎心疾患の存在が疑われる症例、治療方針の判断が難しい症例、良好なコントロールが得られず困っている症例、救急時の対応が難しい症例、カテーテルアブレーションを希望される症例は、循環器専門医にご相談いただくのが良いかと思います。
専門医にご紹介いただく場合の手順
 通常のご紹介の場合、中核病院は地域医療連絡室を持っている場合がほとんどですので、そちらに連絡し、外来の予約を取ってください。診療情報提供書と、可能な場合は不整脈時の心電図を持参していただくのが良いかと思います。
 当院を例にとります。地域医療連絡室にご連絡くださった場合、毎週木曜日午後の不整脈専門外来の予約をお勧めしていますが、月曜から金曜日の毎日、不整脈を専門としている医師が外来を行っていますので、患者様の都合のよい日時のご予約をおとりいただきます。当院は、大阪駅前にあり、交通の便が大変良く通院しやすい立地にあります。緊急の場合は、救急外来担当の医師(夜間帯は当直の医師)にお電話をお繋ぎし、ご相談いただいております。不整脈はもちろん心臓外科を含めた循環器のあらゆる領域の専門家がそろっておりますし、循環器科の医師が2名以上常駐しておりますので、24時間365日、救急外来の受診や緊急入院を含め、適切に対応することが可能です。

桜橋渡辺病院 地域医療連絡室のご案内
地域医療連絡室では、地域の医療機関の先生方と当院をつなぐパイプ役として、ご紹介いただいた患者様の診療・検査等がスムーズに行えるよう、迅速で確実な対応につとめております。
地域医療連絡室直通電話
TEL:06-6341-6801(FAX兼用)
※この電話は医療機関専用ダイヤルとなっております。
※時間外、休日につきましては06-6341-8656(休日夜間専用電話)にお電話いただきましたら、当直医が対応させていただきます。
病診連携について-フォローアップ-
 低リスクで基礎疾患もない症例は、かかりつけの先生方にフォローをいただき、高リスクの患者や基礎心疾患のある患者は、リスクファクターのコントロールやワルファリンコントロールはかかりつけの先生方が、基礎心疾患の治療や救急時の対応は専門医が行うのが一般的です。
 当院では術後も再発の有無のチェックのための外来フォローや救急時の対応等をさせていただきます。紹介元の先生には、リスクファクターのコントロールをお願いしております。術後しばらくはワルファリンの投与は継続しますので、ワルファリンコントロールについてもお願いする場合があります。経過が良好な場合、ワルファリンは半年から一年程度で中止していただいております。その後の当院のフォローアップは、2~4回/年程度となっております。
最後に
 心房細動は、数百万人が罹患するCommon Diseaseであり、増加傾向であるため、臨床上の重要性は増していくものと思われます。また、アブレーション治療の劇的な進歩があったり、エポックメイキングな臨床研究がなされたり、多くの新薬が開発されつつあったりと、循環器領域の中でもっともホットな疾患の一つですので、常に新しい情報を入手する必要があります。
 このレポートが、諸先生方の日常臨床の一助となることを願っております。
井上 耕一 Dr.の写真
桜橋渡辺病院
心臓・血管センター 不整脈科長
井上 耕一