桜橋渡辺病院は、「患者様中心の医療を実践します」「医療の質の向上に努めます」「医療人としての倫理を守ります」を理念とし、循環器病の専門病院として良質で高度な医療を安全に提供する使命をもつ医療機関である。心臓疾患の患者は易感染状態に陥ることが多く、医療関連感染を未然に防止することが責務であり、ひとたび発生した感染症が拡大しないように可及的速やかに制圧、終息を図ることが義務である。
桜橋渡辺病院(以下「当院」とする)においては、本指針により感染対策を実践する。組織図上、感染制御室を設置し、専任の医師、専従の看護師、専任の薬剤師および検査技師を配置する。本指針の対象者は、すべての患者とその家族、また来院者と病院内で働くすべての職員であり、感染から守り、組織としての感染管理の質の向上を図ることと、全職員が感染管理における役割を把握することを目標として作成する。
本指針は感染防止対策委員会(Infection Control Committee;ICC)の議を経て策定する。また、感染対策委員会の議を経て適宜変更するものであり、変更に際しては専門家の知識と最新の科学的根拠に基づかなければならない。
月に一度の定例会議を開催し、必要に応じて委員長の招集で臨時に開催する。感染制御チームの報告を受け、その内容を検討した上でチーム活動を支援するとともに、必要に応じて各診療科に対して改善を指示する。委員は職種、職位に関わらず、感染防止の観点から自由に発言できる。また、委員はその職務に関して知りえた事項のうち、一般的な感染防止対策以外のものは委員会および院長の許可なく、院外の第三者に公開してはならない。主に感染管理に係わる以下の内容の協議、推進を行う。
感染防止対策委員会(以下「ICC」とする)は、病院長が任命する感染防止対策委員長(以下「委員長」とする)を議長とし、看護部長、各診療科部長、関係各部門の責任者や感染管理担当者など病院長が必要と認める者により構成する。
感染制御チーム(以下「ICT」とする)は、ICCの下部組織として位置づけられ、感染防止対策における実働的なチームとする。ICTはICC委員長より院内の感染防止対策に関する権限を委譲されるとともに責任を持つ。また、重要決定事項については感染防止対策委員会に報告する義務を持つ。異常な院内感染が発生した場合や、アウトブレイクが疑われる場合には速やかに調査を行い、制圧にあたる。
医師、薬剤師、検査技師、事務、感染管理担当者、看護師を主たるメンバーとし、その他の適格者(院長が適任と判断した者)を中心に組織し、組織横断的に活動する。重要事項決定の際やその他必要時は委員長をアドバイザーとし、報告、相談を行う。ICT委員会は月に1度開催し、週に1回程度の定期的な院内ラウンドを行って、現場の改善に関する介入、現場の教育、アウトブレイクあるいは異常発生の特定と制圧にあたる。
抗菌薬適正使用支援チーム(以下「AST」とする)は、ICTと同じくICCの下部組織として位置づけられ、感染症診療における実働的なチームとする。ASTはICC委員長の指示のもと、ICTと協力し、薬剤耐性(Antimicrobial Resistance ;AMR)のさまざまな課題について、抗菌薬治療を主とした感染症治診療を専門的に監視・管理し、必要に応じて介入・フィードバックなどの支援を行う。
医師、薬剤師、検査技師、感染管理担当者を主たるメンバーとして組織し、組織横断的に活動する。週に1回程度の定期的な院内ラウンドを行い、現場における感染症診療が円滑かつ適正に行われるよう支援する。
感染対策マネージャー(以下「ICM」とする)はICC、ICT、ASTと連携し各部門における感染防止活動を行う。各部署でモデルとなり感染防止技術を実践するための知識の充足とリーダーシップが必要である。各部署の所属長はICMを推薦し、病院長の任命のもと活動を実践する。感染防止技術の実践に加えて、各部署で発生する問題点の抽出とその解決策を導きだし、改善を図る。ICMは当院での経験年数が3年以上あり、看護師においてはラダーステップ3以上の者が望ましい。月に1度感染対策マネージャー会を開催する。
感染管理担当者、各部門のスタッフを中心として構成する。その他感染管理担当者が必要と考えるスタッフについては、ICC委員長の指示のもと配置する。
院内で発生した感染症の発生状況や原因に関するデータを継続的かつ組織的に収集して、的確な感染対策を実施するために医療関連感染サーベイランスを実施する。ICC、ICT、および関連部署と協働し、日常的感染率を明らかにする。ICC委員長が関係部署に協力を指示する。得られた結果を分析し、感染防止対策に活用することを目的とする。
[実施するサーベイランス]
・人工呼吸器関連肺炎サーベイランス
・手術部位感染サーベイランス
・中心静脈カテーテル関連感染サーベイランス
・尿道留置カテーテル関連感染サーベイランス
・耐性菌サーベイランス
感染防止対策の基本である手指衛生を積極的に推進する。
空気感染対策・接触感染対策・飛沫感染対策を強化し、交差感染を防止し、安全な医療環境を整える。各種感染対策実践に必要な物品を整備し、職員へ教育を実施する。
委託業者とのミーティングを実施し、患者に快適な医療空間を提供する。改築、工事の際は関係部署と連携し感染防止対策の視点で提言し、安全面の管理を実施する。
職員の健康を適正に管理するため、総務課と協働し職業感染防止対策を推進する。
ICTは安全管理部門の協力を得て、データの集計、分析、評価し血液体液曝露予防策を改善する。血液体液曝露および針刺し事故対応マニュアルを整備し、血液体液曝露事象発生時は速やかに対応する。
全ての職員に対して、毎年流行時期にはインフルエンザのワクチン接種を実施する。また接種率向上のための介入を実践する。麻疹、水痘、風疹、流行性耳下腺炎のアウトブレイクに備え、抗体価の測定を推進し、対象者にはワクチン接種を推奨する。
結核など空気感染する疾患の感染防止職業感染を防止し、職員を守る視点での物品配置結核など空気感染する疾患の職業感染を防止し、職員を守る視点での物品配置や環境の調整を推進する。陰圧室や外側換気が行える個室がなく、原則的には結核の排菌患者の入院管理は行わない。しかし、やむを得ず結核疑い患者を入院管理する際は、ICC、ICTで十分検討し、感染拡大を起こさないよう徹底する。結核患者発生時は、保健所と協議のうえ接触者にたいしては十分な接触者検診を実施する。
感染対策マニュアルなど、その他の感染対策推進のために必要な指針は、必要に応じて随時改訂や追加を行い、職員に周知徹底を図る。