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副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
歴史に学ぶ
2017年2月2日 つぶやき94
 大河ドラマが真田丸に代わり、女城主直虎が始まりました。ネットでは子役の演技に賞賛する意見がある反面、視聴率が芳しくないとも言われています。1月は4回ありましたが、私は好意的に見ています。真田丸のヒーローの真田幸村はその時代のビッグネームですし、それと比べて知名度はお話になりません。しかし、歴史上あまり知られていない人物でも描き方次第ではドラマが大衆におおいに受けることも過去にはありましたし、特に女性の場合は男性に比べて歴史の表舞台に出ないこともあって、歴史上は不明な点が多いものです。その分、既成概念がないのでこれを逆手にとってエキサイティングなドラマの展開を期待しています。

 ここ数年、お正月に私の高校の元同級生が集まってプチ同窓会が北新地で開かれています。高校卒業は今から40年以上前、その当時は多くの友人は東京の大学に進み、そのまま東京で就職でしたので、関西在住は少数です。その少数派から10名弱集まりますが、ほぼメンバーも固定され、とりとめのない話に花を咲かせます。それでも2~3時間はあっという間、たった1年の世の中の動きに話題は尽きないというところですが、たまに常連でないものが来てくれるとますます話が弾みます。今年は東京在住のK君が来てくれました。彼は同窓生の中では特筆すべき人物で50代前半にかのリクルートの社長を務めました。今は会社を辞めているものの、いろいろと仕事の話は舞い込むようで、関西では某社の社外取締役を引き受けているとのこと。その彼が今は早稲田大学に通っている、もっとも正式に学生に戻ったわけではなく、聴講生として講義を聴いているそうな。その講義というのが歴史、日本の近代史(明治以降)というのです。ちょっと、どころか十分意外な話です。でも、歴史好きな私にとっては興味深い話。”なんで歴史なん?”当然の質問が誰からともなく飛びます。彼の回答は明快でした。本当の歴史を知らないと今の日本の成り立ちがわからないから。私もその通りだと思いますし、それが歴史という学問の意義だと思います。その早稲田の歴史の講義ですが、残念なことに日本人の学生がほとんどいなくて、多くは中国からの留学生だと彼は嘆いていました。中国からの留学生は間違いなく現在の中国の若手のインテリ層、おそらく将来の中国の政治的にも経済的にも指導者層になる可能性が高い人たちでしょう。そんな彼らの話は我々が持つ今の中国のイメージとはずいぶん異なるそうです。彼らは中国政府からの情報を信用していないし、国内では本当の歴史は学べないことを知っている、だからわざわざ日本に来て本当に何が起こったのか、ある事象がどうして起こったのか、歴史の真実を探している、彼らは本国政府より日本の情報の方が公正だと思っているのだと。そして本当の歴史を知らないとこの先中国が国際社会で生きていくことができない危機感も持っているそうです。これは日本人の若人に聞かせたいセリフですな。

 私たちは小、中、高と日本史を学びますが、○○○○年に×××が△△をした。といったように単なる暗記教科で終わってしまっているのが実情です。さらに高校の日本史では最後まで終わらないこともあるようで、近代史はいつもその犠牲になります。それは授業時間が制限されていることもありますし、目の前に受験がありますので仕方ないかもしれません。でも、本当の歴史の意義は過去の事例から学ぶこと。一番いい例は太平洋戦争でしょう。かの戦争がなぜ起こったのか、他の選択肢を選ばなかったもしくは選べなかったのはなぜか、その背景にあったものを知れば知るほど教科書に書かれていることだけが真実でないことがわかります。興味のある方は最近出版された加藤陽子著、戦争まで‐歴史を決めた交渉と日本の失敗‐(朝日出版社)をお勧めします。著者は東京大学文学部教授でこの分野の第一人者です。歴史には人類がそして日本人がやってきた多くの失敗例もありますので、まさに情報の宝庫です。そして過去を顧みて同じ失敗は繰り返さない、今の取るべき道を探しだすのが肝心なのだと思います。”歴史は繰り返す”という有名な諺がありますが、もしそうなら、歴史を学ぶことは”逃げ恥”同様人生に”役に立つ”とも言えるでしょう。

 過去に学ぶことはおそらくほとんどの方が知らず知らずのうちに実行されているでしょう。医療の世界もこの繰り返しです。過去のこんなことがあって患者さんに迷惑をかけてしまったので、次からはこれを改める。患者さんに何度もお名前を言ってもらうことがその一番の例だと思います。ほとんどの患者さんが面倒くさいことだという本音を出さずに協力していただいている点はありがたいことです。医療現場の中でそんな経験を重ねて医師や看護師等の医療スタッフは成長します。でも、若手の医師が成長するためにそのたびごとに患者さんにご迷惑をかけるわけにはいきません。若手の医師にこれはやってはいけないことなんだ、と理屈じゃなく実体験とし理解させる、でも、患者さんには実害が及ばない。定年までそう長くない私達の仕事だと感じていますし、これも今年の目標としたいと思います。