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副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
待ち時間
2017年3月2日 つぶやき95
 3月、大阪に毎年大相撲がやってきます。今年は19年ぶりに日本出身の新横綱を迎えての場所ですからいやがおうにも盛り上がることと思います。さて、日本人は待つことに非常に寛容な人種と考えられています。かの阪神淡路大震災や東日本大震災で、バケツ1杯の水や食料の配給に長蛇の列ができ、待ち時間が何時間を越えようとも整然と順番を待つ光景は海外の人々にとっては驚きであり、敬意をもって迎えられました。普通は暴動が起きて、警察官が大挙して来ないと収まらない、というのが当たり前、その感覚からすれば異常にも映るものの、その規律の素晴らしさは脅威であるとも報道されたように記憶します。その待つことに寛容な日本人でも19年間、日本出身の横綱がいないことは私も含めて、知らず知らずのうちにストレスだったと思います。冷静にかつ厳密に横綱昇進基準を見れば、もう1場所待つ、というのが妥当だったと思います。でも、待ってられないし、もし待った結果うまくいかなかったら次にはいつになるんだ、と思うと、ちょっと拡大解釈ですが、もうこのあたりでいいのでは?という問いかけに”反対!”とは言えないですね。

 ”待つ”といえば、最近の情報化社会の発展で、どこかにおいしい店があるとアッという間に広がり、その店に長蛇の列というのは珍しい光景ではありません。そんなに評判にならなくても大学病院や市内にある大病院では患者さんが診察や検査に待たされるのは日常の光景です。当院もご多分にもれず、いわゆる待ち時間は相当長くなっていることがいつも会議で問題となっています。それであれこれと議論はするものの決定的な打開策を見つけられず、いわゆる”小田原評定”です。果たしてどうしたら病院の待ち時間が短くなるのでしょうか?それには患者さんがお客様である病院の事情があります。その前にまず、一般的に”待ち時間を減らすのはどうすればいいか?”という問いには2つの答えがあると思います。一つめは人員やスペースを増やせばいいのです。たとえば超人気スイーツ店があったとします。かつての中之島ロールではないですが、ある商品目当ての客が長蛇の列、ならばお目当ての商品の生産能力を上げれば、待ち時間は解決するはず。でも、大きな問題がひとつ。生産能力を上げるにはそれなりの設備投資と従業員の増員が必要です。人気商品が今のように売れ続けるのならばいいですが、そうでなくなった場合、つまり飽きられて売れなくなってしまうと人員は解雇すればいいですが、設備投資が無駄どころか損失につながりますので、事業主としては簡単に踏み込めるものではありません。そこで、もう一つの方法として商品の売値を高くすることがあります。たとえば長蛇の列ができる人気ラーメン店、ラーメン1杯、500円だったとしましょうか。それを600円、700円と値上げしていくと、客足は遠のいていくはず。そしてどこかの価格で長蛇の列は解消され、店の中は昼飯時には常に満席という状況に落ち着いてくれるという期待があります。では、これらの方法を病院の待ち時間の解消に応用できるかどうか、それがきわめて困難なのです。まず後にあげた商品の値上げですが、これは日本の医療システムから不可能です。日本は世界でも類まれない国民皆保険制度に支えられた保険診療ですので、医療行為の価格を自由に設定することはできないですし、健康に直結する問題を美容外科のように”いくらいくら出したら、こんな治療が可能です”と言ういわゆる自由診療をするわけにいきません。ということで2つ目の施策はありません。とすると何とか人員なり、スペースなり、設備を増やして対応するのが一番合理的といえますが、これがまたなかなかの難物です。特に当院の場合は心臓病に特化した病院ですので、内科、外科、麻酔科、それぞれに心臓に関するスペシャリストをラインナップしています。医師の応募をかけてもこのご時世簡単に確保できるわけもないですし、心臓の専門の先生となるとさらに厳しいのです。また、医師のみならず検査技師さんや看護師さんも増員しなければなりませんが、検査技師さんだけをみても心臓の必須の検査である超音波検査ができるにはかなりの修練がいります。医療にかかわる職種は医師、看護師等々すべてにおいて卒業して国家資格を得たところで、実際の臨床にはすぐには何の役にも立ちません。結局は若い彼ら(彼女ら)を育てながら、臨床業務をこなす事を地道に続けること、これが長い道のりでありながら最短距離のような気がしますし、会議の結論は結局ここに至っています。狭い病院ですが、それでもまずはスペースの増加を事務方が何とかやりくりしています。もしかしたら診療の場では”なんかこの先生、頼りないわ。大丈夫?”と思われることもあるかもしれませんが、しかるべき上司が必ずフォローしておりますので、ご理解いただければと思います。

 待ち時間が短縮できなくても、その時間が快適であれば、同じ待ち時間でも短く感じるはずです。以前この”つぶやき”(つぶやき87)でつぶやかせていただきましたが、コーヒーは体にいいので、待ち時間を隣の喫茶店で、という話もいいんじゃないかと思います。喫茶店の店主の方から渡辺病院の患者さんは診察当日に限りコーヒー○○円でサービス、という申し出があればいいなあ、と勝手なことを思っています。待ち時間を快適に送る施策、根本的な解決ではないですが、短期的には効果が期待できそうな気がします。現在あれこれと何かないものかと、頭を回転させております。こんな方法なら快適に待てるかも、というアイデアがあれば、ご提案いただければありがたいです。当事者の意見は貴重ですし、私達には目からうろこのご意見があったり、見過ごしていることがあるかもしれません。