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副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
最後もコロナ:ワクチンってどうなん?
2020年12月14日 つぶやき140
 1か月前にコロナでつぶやきましたが、この間にコロナの第3波が到来、おそらく第1波をしのぐ勢いで蔓延してますし、医療危機が本当に起きかねない状況です。ただ、悪い話ばかりではなく、イギリスやアメリカではいよいよワクチン接種が始まり、これらワクチンが有効ならコロナの収束が見えてきます。

 さてそのワクチンですが、私たちが子供のころから予防接種として受けていたものは生ワクチンと不活性化ワクチンに分類されます。生ワクチンとはウイルスを弱毒化して用いるもので、BCG、ポリオ、はしか、風疹、おたふくかぜ,種痘が親しみのある生ワクチンです。生ワクチンはウイルスそのものを用いるので明確な免疫反応は得られますので一番確実なワクチンです。しかし、弱毒化したとはいえウイルスそのものを打つわけですので、何らかの病気で自らの免疫力が落ちていると予防接種のはずがその病気になってしまうこともあります。不活性化ワクチンとは病原性をなくしたウイルスの一部を用いるワクチンです。インフルエンザ、狂犬病、3種混合、日本脳炎などが有名です。また、最近社会問題となった、ヒトパピローマウイルスワクチン(子宮頸がんワクチン)もこの種類に入ります。ウイルスの一部を用いるので病原性はありませんが、生ワクチンに比べると免疫反応の確実性は劣ります。

 実は今回の新型コロナのワクチンですが、これまで用いられてきた生ワクチンや不活性化ワクチンとは全く異なるワクチンです。生ワクチンと不活性化ワクチンの開発も世界のどこかで行っているはずですが、いずれのワクチンも時間がかかり、大量生産にも限界がありますので今回のような世界的なパンデミックには難しいのです。今回のワクチンは核酸ワクチンと分類されるもので人類史上臨床に応用されたことはありませんので、未知のワクチンとも言えます。ここで核酸という言葉の説明を簡単に。もともとは細胞内にある核になにかしら酸性物質があることがわかってシンプルに核にある酸性物質で核酸と命名されたのです。核酸は2種類あり、デオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)です。日本語よりDNA, RNAと言った方がとおりがいいように思えます。皆様ご存じの通りDNAやRNAには遺伝子情報が組み込まれており、人間のみならず全ての生命体の構造をなす遺伝子情報(たんぱく質の情報と言い換えることもできます)が含まれています。今回開発されている核酸ワクチンはこの核酸が持つ遺伝子情報を利用しています。大雑把に言えば新型コロナの一部の遺伝子情報をDNAあるいはRNAという形で取り出して、これを接種するのです。その接種されたDNAやRNAがうまく人間の細胞内に運ばれて新型コロナのたんぱく質が産生されるとそれはその人が持っているタンパクとは異なるもの、つまり異物とみなし、人間の免疫反応でその抗体ができます。それが新型コロナの抗体として働けば従来の予防接種と同じようになりうるというシナリオです。この核酸ワクチンの一番いいところは現在の遺伝子操作の技術で必要なDNAやRNAを大量生産ができることです。また、今回の新型コロナウイルスは変異しやすいことがわかっていますが、その変異にも随時対応ができる点も大きいとも言えます。

 ただこのシナリオにはいくつか克服しなければならない課題があります。まず、摂取したDNAなり、RNAからウイルスのたんぱく質の一部が産生されるかどうかです。そのためにはこのRNAなり、DNAが細胞質内に取り込まれなる必要があります。それにはちょっとした工夫が必要で運び屋と呼ばれる別のウイルス(一番有名なのはアデノウイルスという名のウイルス)に細胞内まで運んでもらったり、細胞内に取りこまれるように別の薬物を用いる(この辺りは企業秘密かも)などがあります。単にRNAやDNAを皮下や筋肉内に打っただけでは何も起きないので、なんらかの工夫が必要なのです。ただ、その工夫があらたな副作用につながる可能性については現時点では大丈夫と言われていますが、だれも完全には否定できない現状と思います。さらに細胞内に取り込まれたRNAやDNAが何か悪さをしないのか、という点も実は未知なんです。もちろん動物実験等でそのあたりは十分検討されてこの方法には問題点がない、というのが現時点での学問的な結論なんですが、それが将来を保証するわけではないのはご理解いただけると思います。ましてや今回は人間に、それも大量の人に投与するするわけで、歴史上初めての試みとも言えます。接種直後の副作用のみならず子々孫々まで影響まで考えると現時点では副作用は心配ないという結論は出せないと思えます。

 現時点で新型コロナの致死率は2%弱です。これは第1波からの数字です。徐々に対処法もわかってきましたので、今現時点での致死率はもっと低いと考えられます。さらにこの数字は全年齢層の合算です。高齢者や基礎疾患のある方の致死率が高いことも明らかです。すると若い方はもっと低いはずですからワクチンの有効性との天秤で打つかどうか、決めるべきと思いますし、それに関する情報を政府やマスコミは世の中にもっと流すべきと思います。”コロナは怖いぞ”というだけがマスコミの在り方とは思えません。特にこれから子孫を残す世代には私はもうちょっと待って、と言いたいと思います。あるネット上のアンケートで医師の約40%弱がワクチンを打ちたくない、と答えているそうですが、そりゃそうでしょう、専門的な知識があればあるほど慎重になります。

 日本は過去に大きな薬害を経験してきました。その記憶からなくなりつつある薬害の一つにサリマイドがあります。当初はあれほどの胎児奇形を生み出すとは認識されていなかったし、特に日本は欧米での警告を軽視し、使い続けた結果とんでもない大きな薬害に発展しました。将来何十年も後にこの核酸ワクチンにどんな評価が下されるか、当然ですがだれにもわかりません。何か大きな実験台に乗せらているような、そんな感覚があります。わかっていることは今の私たちのデータが将来の医療に役に立つことは間違いないということです。

 最後にずいぶんと暗い話題になってしまいましたが、今年は確かに暗い一年でした。来年、コロナを克服し、また笑って、マスクなしで歓送迎会を開けたらいいなあ、と思います。実は私、アルコール無茶苦茶弱いんですけど。長きにわたりおつきあいいただきありがとうございました。