メニュー
副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
オーバーブッキング
2017年5月2日 つぶやき97
 最近の情報の伝達の速さは還暦のおやじには驚きです。ネット上でユナイテッド航空がオーバーブッキング(過剰予約)のため乗客を無理やり機内から降ろしたとして非難ごうごうでした。でも、飛行機でのオーバーブッキングは実は日常茶飯事ですし、それほど騒ぐほどのこともないのにと思っていましたら、ほどなく乗客が降ろされる様子が動画で見られるようになり、さすがにこれはひどいものでした。アメリカでは最後はこんなことまでするのか、と思うと少し背筋が寒くなりました。と申しますのは今から約30年くらい前、このオーバーブッキングを逆手にとって楽しんでいた自分自身がありました。結果的にとくに不利益はなかったどころか、むしろご利益を頂いた口でしたが、実際は結構やばかったんだと。改めて運が良かったんだなあと納得しています。そんな昔話に今月はおつきあいください。

 平成3年から5年までアメリカのスタンフォードという大学に研究留学をしておりました。スタンフォード大学はサンフランシスコから南に車で40分くらいのパラアルトという田舎町にあり、日本から行くにも帰るにも便利なところでした。この大学、アメリカでも東のハーバード、西のスタンフォード(日本で言えば東の東大、西の京大というところでしょうか)というくらいのいい大学で、一説によると当時は石を投げれば、ノーベル賞受賞者に当たる、と言われるくらいでした。実はそのことは向こうに着いてから知りました。当時の私の中での留学先は交通の便利なところが最優先でした。そのころ関西空港はまだありません。伊丹の大阪空港から数は少ないもののアメリカへの直行便が出ていました。といってもニューヨークかサンフランシスコの2路線だけだったと思います。サンフランシスコへは唯一かのユナイテッド航空が毎日直行便を飛ばしており、成田や関空に回ることを思えばとても便利な時代でした。同じ気持ちの方は当然のごとく多く、この飛行機はほぼ満席でした。海外に行くときは少なくとも2時間前、できれば3時間前にチェックインと旅行会社に教えられた私は忠実にそれを実行していましたが、アメリカでの留学生活を始めてみると現地の方はそんなに早く空港に行く奴はいない、とのこと。それを真に受けて正月に日本に一時帰国する時、1時間くらい前にサンフランシスコ空港でチャックインした時のことです。ユナイテッドのスタッフから”満席ですのでホテル1泊と1日の食事代をご用意しますので明日の便にしてもらえませんか”。予約は取れているはずだと反論してもみなさん予約は取れているのですと。これが世に言うオーバーブッキングか、噂には聞いていたが本当の話だったんだと再認識。いやいや今日、日本に帰らないと支障があるから、と食い下がると少々お待ちくださいと。ヤバイと思いつつもしばらくすると呼ばれて、エコノミーの席がないのでビジネスクラスにアップグレードさせていただきますと。最初は耳を疑いました。それは自分が正確に聞き取れているかどうかの不安の方が大きかったからですが、でも飛行機に乗り込むと不安は解消、席もビジネスなら、サービスもビジネス。これほど快適に海外から日本に戻ったことはありませんでしたので、大満足、むしろ日本に着くのが遅れてほしいと思うくらいでした。

 サンフランシスコ‐大阪は日本での学会や正月、夏休み等で一時帰国するたびに往復したのですが、それからというもの、夢よもう一度、というところでこの便に乗る時は必ず1時間前にチェックインと決めました。またあるアメリカの友人からあまりぎりぎりにチェックインすると荷物が届かないことがあるとアドバイスされましたので、万全を期して手荷物は預けず、すべて機内に持ち込んでいました。当時のこの大阪―サンフランシスコ便は混んでいたこともあったのでしょう。このあと2回、ビジネスへのアップグレードの恩恵を受けました。でも、今回一つ間違うと本当に機内から追い出されることもあるということを知り、まさに”知らぬが仏”だったんだとつくづく思います。逆に真実を知らないでいる方が幸せであり、楽しみが多いこともあるものです。

 留学から帰ってからも何度かは学会出張でアメリカに出かけることはありましたが、その後はこんなラッキーはありませんし、そのうち1時間前のチェックインはやめました。関西空港ができて、アメリカへの便が増えたせいでしょう、満席の飛行機にのることはほとんどなくなりましたし、アメリカに学会に行くにしても日程ぎりぎりで組むことがほとんどで万が一にも遅れるわけにはいかなくなりましたので、ギャンブルは卒業です。今後、仕事が定年で終わって隠居してからいつか自力でビジネスを買って、アメリカなり、ヨーロッパなりへの旅行を楽しみにしています。