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副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
入試問題
2018年2月7日 つぶやき106
 日本列島に冬将軍が居座り、寒い日が続き、インフルエンザも大流行しています。特にこの時期は受験生にとってはまさに正念場、ベストコンディションで本番に臨まれることは祈るばかりです。

 入試といえば、最近になって阪大の昨年の物理でミスがあったことが大きく取り上げられていました。大学が用意した答えは1つだったはずなのに、複数の正答があったため、採点のやり直しを余儀なくされ、結果追加合格者が出たとの事です。不合格と言われていたのに合格でした、と言われれば誰もがうれしいはず、でも話はそれほど単純ではありません。もうかれこれ1年過ぎているわけですから、それぞれに事情があるでしょうし、今更言われても、というのが本音でしょうね。オリンピックで上位選手がドーピングで失格になると数年後に順位が繰り上がります。その結果銅メダルが銀メダルになったり、4位だったのが銅メダルになったりすることもあります。でも、うれしいけど素直に喜べない、ちょっと似ているように思えます。

 さて、この入試問題のミスですが、一番問題なことは何か?と考える時、医療現場とも共通項があります。医療を行うのはヒトですから100%の完璧はありえません。ですから、医療安全の基本は”ヒトはミスをする”という前提でそれをどうカバーするか、患者さんへの被害をいかに最小限に留めるか、このミスを今後の治療にどういかすか、という点が重視されます。入試問題は人の人生を左右します。ですから、ミスはあってはならない、でも、ここでも所詮ヒトのやることですから、100%の完璧は不可能で、必ずミスは生じます。ミスをなくす努力は大前提ですが、それが起こった時の対処も同じくらい重要です。今回はミスを指摘された時の対処に少なからず問題がありました。報道によるとかなり早い時期から問題のミスが指摘されていたものの、阪大当局はそれを認めなかったことが長期化の原因とのことでした。医療安全の基本のひとつは複数の人によるチェックですが、今回の阪大はそれが欠けていたようです。

 ミスが指摘された物理の問題は音波に関する問題だったそうで、野次馬根性で早速ジュンク堂に行って赤本の阪大のその問題を解いてみました。これでも41年前の受験生の私は物理が得意教科で本番でも9割超だったんですけど、当然のごとく”歌を忘れたカナリア”で、さっぱりわかりませんでした。昔から阪大の物理は難しいけど、思考力を問う良問が多いのが特徴と言われていますが、それは出題者の技量を反映している事に間違いないと思います。当然、入試問題作成チームも自分たちの技量に自信もあるはずですから、外部からの指摘にも”よもや自分たちに間違いはあるまい”という先入観があったとしても責められないと思います。そのあたりがいわゆる当事者の弱みです。第三者であればもう少し冷静によく物事がみえていい判断ができるところ、いわゆる”岡目八目”というわけですが、当事者は冷静のつもりでも実際はそうはなれていないものです。そんな情景は医療現場でも無きにしも非ずです。こう言ってしまうと、医療現場ではいつも当事者より外部の人の方が物事をよく見ている、と誤解されるかもしれませんが、実際は当事者の方がよく考えている、というのが本当のところです。ただ、予期せぬことに出くわしたときに常に冷静でというわけにはいかないのがヒトであり、その際に大切な見落とすリスクをカバーするものなしでは医療現場は預かれないのです。

 今回のことで阪大は入試問題の再検証を行う組織を立ち上げるとのことでした。果たして今年の問題はどうなるか、所詮私は解けませんが、野次馬根性だけは健在です。

 阪大のことが下火になったころ、同じことが京大でも起こっていたことが報道されました。それも同じ物理で、音波の問題。偶然の一致なのでしょうか、それとも昨今の入試では音波は鬼門なのでしょうか。普通に考えれば、今年は阪大も京大も音波は出しにくいでしょうね。それでも音波の難問(良問)を出してきたら、”おぬし、なかなかやるな!”と叫びたくなるかも。

 ちょっとだけ余談です。あくまである浪人生からの未確認情報なのですが、阪大の物理の不備を駿台は早くから指摘していたのですが、河合塾は阪大が示す1つの回答が正しいという見解だったそうです。さすがに理系に強いと言われる駿台だけのことはあると改めて、”おぬし、なかなかやるな!”