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副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
医学部不正入試:女子一律減点
2018年10月3日 つぶやき114
 東京医大の贈収賄から始まった事件が飛び火して同校の入試で女子一律減点が明らかになりました。ネットなどによるアンケート調査などを見ると医師のほぼ半分が”あり得る”と答えています。一般的に見れば、著しい女性差別で許されない事ですが、現場からみればそれくらいはしてもらわないと現場が持たないという気持ちが背景にあるようです。文部省は東京医大の不正を受けて、全国の医学部や医大に緊急の調査をしています。その速報が9月4日に公表していますが、女性受験者に対する減点等について東京医大以外の大学は”無い”と回答しています。これで東京医大以外は公正な受験が行われていると額面どおりに受けたられる方は果たしてどれくらいおられるでしょうか。おそらく少数でしょうね。

 このような事件の後の来年の医学部入試、いやがおうにも注目されます。女子の数を抑えたいとは表立って言いにくいですが、間違いなく大学側の本音です。なんとか公正を装いながら自然の流れで女子を抑制するためのどんな手があるでしょうか。これは以前からあったことですが、医学部の入試では一部の例外はありますが理科は2科目で物理、化学、生物から2科目の選択です。私立の医学部ではその中で生物の難易度が高い傾向にあります。女子が物理を避けて、生物を選ぶことが多いからです。あとは比較的女子が強い英語の難度を下げて、差がつきにくくする、男子が強い数学の難度を上げる、などは誰もが考えること。もしかしたら、理科では物理必須、あと1科目を生物か化学から(昔、阪大理系はそうだったような記憶があります)、と言い出す大学があるかもしれません。これは明らかに効果があるはずですが、なんで医学部が物理必須なの?生物必須ならわかるけど、という非難をどうかわすのか、頭の痛いところですが、私個人は医学部に物理必須はいいと思っています。論理的な思考力を問うことは医師に必要なことだと思うからですが、ちょっと理解してもらえないかもしれませんね。そこで、前回のつぶやきでも触れましたが、その一番の担い手が小論文であり、面接となります。これをなくした大学があれば拍手喝采となりますが、女子が増えること想定しなければならず、将来を考えると相当の覚悟が必要でしょう。もっとも来年度については事件からあまり時間もなかったので、急の変更は難しかったかもしれません。今から数年のスパンでどのような巧妙な変化がみられるか、注目です。

 女子の一律減点について、現場からはそれもやむなしとする声が出ているのは事実です。その現場の声に女性医師が働ける環境整備を無視して、差別するのは論外である、との反論はまさに正論中の正論ですし、誰も反論はできないはずです。でも、今すぐに正論が通る現場になるのか、と言われれば残念ながら100%不可能です。この問題は医師だけの問題でなく結構根が深いのです。

 医師の長時間勤務やサービス残業が問題となって久しいですが、これを解決できないとすべての女性医師が出産や育児をしながら現場でキャリアを積める時代はまず来ないと思います。そのために一番の特効薬は医師の数が増えること、次に増えた医師を本人の希望をある程度無視して、足らない部署(言い換えれば仕事がきつい部署や地方の病院や診療所)に振り分けることが可能になることが必要だと私は思っています。ただ、その第1段階である医師数を増加させることですら簡単ではありません。医師の団体でよく登場する医師会は基本的には医師の増員には積極的ではありません。医師会が増員に大手を振って賛成でない、一見矛盾しますが、簡単なロジックです。医師会は医師という職業を持つ人たち(その中でも開業医が多く、勤務医では医師会に入っている人は少数)が会費(お金)を払って運営する組織ですから、何よりも優先させるのは会員の利益、社会への貢献は優先順位が次になってしまいます。ここ30年を振り返ると私が学生のころ社会的地位が高く、収入が保証されていた職業の中で弁護士、歯科医の衰退が目立ちます。その原因はひとえに作りすぎための競合、さらに十分な教育が欠如し、個人間に格差が生じてしまいました。これをみると、”簡単に作りすぎるのはいかん”、という結論になってしまいます。特に開業医の先生にすれば、その周辺にライバルが登場することには神経質になりますし、その声を医師会は勘案することになります。すると、医師会が悪者か、ということになりますが、その動きを行政も歓迎しているように思えます。その背景には医療費の負担増があります。医師を増やせば増やすほど医療費は膨らみますし、現況でもかなり厳しい状況ですので、この先の医療費の増加は避けたい、つまり医師数を増やしたくない、これは現状先送りが恒例の行政の偽らざる本音のはず。呉越同舟とはよく言ったものです。もし、このまま医療費が青天井のままではいずれは国民の負担増、つまり保健医療の3割から4割、5割負担、さらには所得税や消費税のさらなる増税という議論も出てきても不思議ではありません。つまり、国民にリスクが伴う可能性があるので、結構根が深い問題です。その是正には相当な時間と面倒を覚悟しなければならないでしょうし、この問題については将来を見据えたリーダシップが必要だと思いますが、この火中の栗の熱さは半端ないです。