メニュー
副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
二日酔い
2019年3月7日 つぶやき119
 3月の年度末は異動の季節です。世間一般と同様に本院でも毎年この時期に医局人事で医師が入れ替わったり、看護師さんや臨床工学技士さん、いわゆるパラメディカルと呼ばれる方々が新たな就職先に行くのもこのタイミングが多いです。そのため3月は送別会の季節ですし、4月は歓迎会です。今年もご多分に漏れず3月の金曜日はほぼ予定が埋まっています。人はお酒を飲むと気分がよくなるらしいですが、私はそんなことは皆無で、気分が悪くなあと思ったら吐き気が襲ってきます。最初の一杯の冷えたビールのおいしさは理解できますが、それ以上は未知の世界。そんなわけで、この季節は忘年会のころ同様、ちょっと憂鬱な季節です。

 昔からお酒はチャンポンで飲むと二日酔いになりやすいとかビールを先に飲んでおくとその後どんなお酒を飲んでも酔いが回りにくい、という説を耳にします。私の場合はビール単独、少量でも二日酔いになるレベルですので、チャンポンしようが、しまいが、結果は同じですから自分で確かめようがありません。実はその俗説を大まじめで医学的に検証した論文が登場しました。ドイツからの報告でAmerican Journal of clinical Nutritionという雑誌に掲載されたもので、堂々たる医学論文です。正式なタイトルは”Grape or grain but never the twain? A randomized controlled multiarrm matched-triplet crossover trial of beer and wine. (Am J Clin Nutr 2019;109:345-352)です。方法はボランティア(いわゆる私のようなお酒に弱い人は参加できないようになっています)にお酒を一定基準のかなりの量(論文では呼気のアルコール濃度が0.11%としています。飲酒運転に間違いなくひっかかります)を飲んでもらって、翌日二日酔いになったかどうかを客観的に評価するというものです。ドイツですのでチャンポンはビールとワインの組み合わせです。研究ではボランティアを3グループに分けています。ビールかワインのみ飲む人、ビールを飲んでからワインを飲む人、ワインを飲んでからビールを飲む人、そしてご丁寧なことに1週間後、この逆の組み合わせをやっています。つまり、ビールだけ飲んだ人は今度はワインだけ(ワインの場合はもちろんビールだけ)、ワイン‐ビールと飲んだ人はビール‐ワインに入れ替えて同様に二日酔いを評価するというものです。よくできた方法だと思いますが、結果はシンプルなものでした。どの方法でも二日酔いはほぼ同じだったというちょっと残念な結果でした。

 おそらくこの研究の目的はお酒の飲み方で二日酔いを軽減できる方法を見つけられたらということだと思いますが、研究者がそれを期待していたかどうかはあやしいものです。結果的にはいい方法は見つかりませんでした、ということですが、二日酔いはアルコールの量に相関することはまず間違いのない事実でしょうし、この研究はそのアルコールのルーツが醸造酒でも発酵酒でも変わらないということをあらためてヒトで示したというところでは意義があるんじゃないかと思います。世の中には誰もがそんなことはわかりきっていること、と思い込んでいることが少なからずあるのではないか、と思いますし、今まで当然のこと、と思っていたことをもう一度見直してみて、科学的に検証するのは大切なことです。もしかしたら、その中から思わぬ真実が浮かび上がることもあるかもしれません。それが研究の面白さでもあります。

 さしずめ、日本人ならビール・ワインもいいけどそれに日本酒や焼酎を組み合わせた場合はどうだろう、また、ウイスキーも入れてあげないと片手落ちという意見もあるかもしれません。やってみないとわかりませんが、おそらく結果は同じだろうなあ、と思いますが、そう決めつけるのが一番いけません。私としては飲む順番より、飲む前にこれを食べておけば悪酔いしない、というものを見つけてほしいところです。悪酔いの原因はアセトアルデヒドであるとわかっていますので、これを速やかに分解、排泄することができる物質を含むおいしい食べ物、どこかにないものか、ドラえもんに頼んでタイムマシンで未来に行くことが今はある唯一の可能性でしょうか。