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副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
性差
2016年2月9日 つぶやき82
先月の続きではないですが、オリンピックではどんな競技でもトップクラスとなると男女の体力差は歴然ですので、当然のことながら男女別に争われます。果たして、男女が同じ土俵で競い合うようなスポーツはあったでしょうか。一方、スポーツではないですが、男女に差を設けず、全く同じ条件で競うものもあります。皆さんがよく御存じのものを挙げると大学入試です。中学入試や高校入試では募集に男子○○名、女子○○名とありますので、男女で合格最低点に差が生じることはあります。昨今の進学校の中学入試では女子の方が男子より合格点がはるかに高い(当然、進学塾が出す偏差値も女子が高い)ことも珍しくありません。一方、大学の募集に男女比はありませんので、合格ラインは同じです。結局、頭を使うものでは男女が同じ条件でもOK、でも、スポーツ等の体を使うものでは男女別にしないと不公平という結論が出そうです。まあ、当然と言えば当然かもしれませんね。

主に頭を使うもの、具体的に言えば、文化・芸術系のクラブに相当するもの、は男女が同じでも許されるということかもしれません。でも、文化系の中には体力が必要なものもあります。その一つが毎年、新年の初めの恒例となっている競技かるたです。これは男女別の競技で、男性のチャンピオンは名人と呼ばれ、女性のチャンピオンはクイーンという称号が与えられます。かなり以前からNHKのBS放送で生中継されています。試合では緊張感が持続したまま長時間に及びますので、精神面のみならず、体力面の負担も大きいでしょう。従って、男女が同じ土俵ではいけないのだと思います。一方、体力面の影響があると思われるものの男女差がないものに楽器演奏があります。日本ではピアノが一番ポピュラーなのでピアノのコンクールを見ますと、これは男女が同じ土俵で争います。ショパン国際ピアノコンクール、ピアノを弾かない方でもコンクールの名前は聞いたことがあるのではないかと思います。世界で一番権威があるとされるピアノコンクールの一つで5年ごとにショパンの祖国、ポーランドで行われ、昨年(2015年)が開催年でした。ちなみに昨年は78名が参加、日本からは12名が参戦しました。10月3日から20日までの長丁場で予選が3回あり、予選ごとに参加者が振り落とされ、結局ファイナリスト10名が本選に進みます。ファイナリストの顔ぶれをみると男性8名、女性2名。6位までが入賞ですが、3位に女性が一人であとの入賞者は男性でした。日本からも小林愛美さんが唯一人ファイナリストとなりましたが、残念ながら入賞はなりませんでした。この長丁場のコンクールで、体力面での男女差は少なからず影響があるように思えます。もっとも、芸術という世界では男女差を意識して、今さら男女別にするという議論をするのは伝統にそぐわないのかもしれませんし、表現力では女性が男性より繊細な点もあるでしょうから、体力差だけに目くじらをたてるのもいかがなものかもしれません。

ここで医療に目を向けますと、例えばインフルエンザになったとか、食あたりになったとかで治療を行う時、男性か女性かで薬の処方は変わることはまずありません。しかし、ここ10年くらい前から医学における性差が研究されるようになってきました。まだまだ現場でそれが反映されるには時間がかかると思いますが、将来は患者さんの性別で出す薬が違うということもあたりまえになるかもしれません。また私が担当する麻酔管理でも男性と女性とでは薬の使い方を分けるのが当たり前という時代が来ても不思議ではないように思えます。男女の差が遺伝子レベルから科学的に明らかになると人の身体・精神機能の中で男性優位や女性優位の機能が明らかになるかもしれません。そうするとコンクールのあり方ももしかしたら変わるかもしれません。

実は文化・芸術で、頭を主に使う分野にもかかわらず、今でも歴然とした男女差があるものがあります。将棋のプロ棋士がその一つです。将棋の世界でプロと呼ばれるのは四段以上で、これになるにはプロ棋士の養成組織である奨励会に入会し、そこで優秀な戦績をあげて、三段に昇段する事、そして三段者の集まりである三段リーグ(現在このリーグに属する三段者は30人)が半年ごとにあり、各上位2名だけに四段位が与えられ、晴れてプロ棋士の仲間入りができるという非常に狭き門なのです。三段と四段の差を例えるとすれば、大相撲の幕下と十両と言えばわかりやすいかもしれませんが、それより厳しいと思います。さらに三段リーグには年齢制限があり、それが満26歳なのです。今までこの狭き門を潜り抜けて、晴れてプロ棋士となった女性はいません。過去に何人もの女性が挑戦しましたが、三段リーグにたどり着くこともままなりませんでした。頭を使うゲームである将棋におけるこの歴然とした差は何でしょうか。もちろん将棋の勝負がつくには時間がかかりますので、体力差を指摘する意見もありますが、それならショパンコンクールの方が体力的にはきついと思うのです。もうひとつ、将棋とよく比べられるものに囲碁があります。ここでも明らかに男性優位ですが、その差は将棋ほどではありません。今後、脳科学はどんどん進歩すると思いますが、その中で将棋と囲碁と楽器演奏の男女差が解明されるかもしれません。また、逆に人間の脳機能を明らかにするのに将棋や囲碁における男女差がいいヒントになるのではないか、と思えるのです。

今、この厳しい三段リーグに二人の女性が挑んでいます。里見可奈さん(23)と西山朋佳さん(20)です。妙齢の女性の年齢を書くのは失礼かもしれませんが、年齢制限がありますので、日本将棋連盟のHPよりあえていただきました。特に里見さんは女性で初めて三段になった方でその折にはニュースにもなりました。年齢制限を考慮すれば楽観はできませんが、二人の女性が未知の扉を開くことを期待し、影ながら応援したいと思っています。