メニュー
副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
ジカ熱
2016年4月1日 つぶやき84
いよいよプロ野球が開幕、阪神タイガースはホームでとりあえずは勝ち越しましたので、いいスタートといえましょう。今年はなんといってもリオがありますので、そのころまでタイガースが優勝戦線に踏みとどまっていれば、暑い夏が熱い夏になってくれるはずです。ただ、なでしこの予選落ちは残念でした。リオでの団体球技で一番メダルに近いと思っていましたので、今回の五輪では団体の球技はメダルなしかもしれませんね。

さて、今月は久しぶりに医療ネタです。そのリオですが、ジカ熱という伝染病が蔓延していることが大きな問題となっています。お恥ずかしい話ですが、この病気を私は知りませんでした。オリンピックがあるブラジルで流行っているというニュースをみて、”シカ熱”と読み違い、鹿から人にうつるとは珍しい感染症だなあ、ところでブラジルにそんなに鹿っているんだ、日本に上陸したら奈良と宮島はヤバイなあというのが第1印象。そういえば2年前にデング熱が流行った折も、”テング熱”と読み違え、天狗熱とはおもしろいネーミングだとひとり納得しておりました。眼が老眼化して、濁点が見えないのですよね。

そのジカ熱ですが、この病気がもとで命を失うことはほとんどないので、感染症としてはそんなに怖い病気ではありません。むしろ、今はまだ流行しているインフルエンザの方が生命予後を考えるとよほど警戒したい病気です。ブラジルでのこの感染症の一番の問題は妊婦が感染すると胎児感染が起こり、その結果、先天性の小頭症児が多発していることです。そのため、厚生労働省のHPには妊娠及び妊娠の可能性のある方は可能な限り流行地への渡航をお控えください。と書かれていますし、世界保健機構(WHO)は3月8日に妊婦は流行地域への渡航をすべきでないと勧告しています。

ジカ熱はジカウイルスによる感染症ですが、もともとはアフリカのウガンダでアカゲザルから分離されたのが最初です。アフリカ発祥の感染症といえばよくある話ですが、このウイルスを媒介するのはやぶ蚊です。媒体となることが確認されたやぶ蚊のうちヒトスジシマカという蚊が日本にも生息しているので、もし日本に上陸すると蔓延する可能性があります。ヒトスジシマカといえば、2年前に話題になったデング熱もこの蚊がメッセンジャーです。もし、日本にジカ熱が上陸した場合、この蚊は基本、昼間に行動するので昼間に蚊に刺されない注意が必要となります。特に女性は昼間屋外に出る場合は長袖・長ズボンの着用、忌避剤の使用が推奨されます。

一番問題となる妊婦が感染した場合ですが、たとえば、出産直前の妊婦さんが感染した場合、もう赤ちゃんはおなかの中で出来上がっているわけでそれから小頭症になるとは考えられません。一番赤ちゃんに影響が出やすい時期は妊娠初期というは医学的な常識です。例えば、赤ちゃんに影響がでるもので有名なものに放射線がありますが、これも妊娠初期が危ないのです。おそらくジカウイルスも同様と考えられます(ただし、この病気、わかってないことが多くて医学的に確認できたわけではないのです)。つまり、女性がまだ妊娠しているかどうかわからないけどその可能性があるタイミングが一番ヤバイと考えるのが妥当でしょう。極端な言い方をすれば、妊娠と気がついた時期ではもう遅い、ということになりかねません。

さらにこの病気が女性にとって厄介な点として不顕性感染が約80%ということ。不顕性感染というのはウイルスに感染しているが症状が出ないため感染したと気がつかないことです。これは感染した本人にとっては症状がないのですからいいのですが、知らないうちに周りの人を巻き込む可能性があることです。特に感染者の精液中にこのウイルスが同定されたものですから、蚊がいなくても性交渉での感染の可能性が指摘されました。それでコンドームの使用が推奨となっています。精液中にこのウイルスがいた場合、それで先天性小頭症を招くのか、実は医学的には証明されていません(ある感染症を専門とする先生から伺いました)。でも、可能性が否定されない限り用心にこしたことはないのです。

蚊が媒介する病気、一番有名なのはなんといっても日本脳炎だと思います。その次をあげるとすれば、私達の世代ではきっと黄熱病じゃないかと思います。黄熱病はジカ熱に比べれば恐ろしい病気ですが、日本人にはほとんど無縁です。ただ、この病気で亡くなったある日本人(野口英世です。念のため)があまりに有名で、その伝記を私達の世代はほとんどが読んでいるというか、読まされているからだと思います。そんな日本には無縁だった病気も地球温暖化の影響で日本にも上陸、蔓延化する可能性が現実的な問題となっていると思いますし、起こってからでは手遅れです。しかし、現実に起こるかどうかわからないものを予知して、早急に手を打つ、なかなか成果が見えないので、行政としてもやりにくいでしょうね。でも、そんな危機管理ができる政治家、官僚が将来の日本を救うのだと思います。最後に宣伝です。私達、麻酔科医が行っている麻酔管理がまさにこれなんです。手術中に起こりうる患者さんにとって不都合な事、これを予測してあらかじめ手を打っておけば患者さんの手術は安全に行われます。これも危機管理といいますが、実際、手術はうまくいってあたりまえ、その成果はなかなか見えてこないものなのです。