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副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
歴史は繰り返す?
2016年6月6日 つぶやき86
このところのワイドショーは舛添知事の独壇場という感があります。次から次とせこい話題に事欠かないです。ワイドショーでは辞任すべしの大合唱、それでも彼はその気が無いように見えますし、本人が辞任しなければ解任することは現実的に簡単でないようです。一方では、解任されにくい事を見越して舛添知事はのらりくらりと対応しているという指摘もありました。これらの報道がすべて真実ならばなんで彼が東京という大都市の都知事になれたのか、摩訶不思議ですが、これくらい自分勝手でないと政治家という職業はだめなのかも、と妙に感心したりもしました。その独壇場の中に久しぶりに”STAP細胞はあります”の小保方さんが取り上げられていました。

まさにシンデレラガールであった彼女が主張したSTAP細胞は世界のいくつかの施設で再現実験が行われたものの再現されず、また当の理化学研究所での検証でも否定されていますので、今は”STAP細胞はありません”というのが正しい科学的見解です。よく言われる諺に”歴史は繰り返す”というのがあります。全く同じことが繰り返し起こることはないでしょうが、よく似たことが昔あったなあ、とくらいの意味でしょう。この諺の真偽のほどは微妙ですが、この諺を思い出してはSTAP細胞についてちょっと気になっています。

医学を含めた現代の科学は多くの発見の歴史の上に成り立っていますが、今ではあたり前のことが発表された当時は全く相手にされなかったことがあります。まずはメンデルの法則、今では中学の理科で習う遺伝の基本法則ですが、メンデルがこれを唱えた当時は全く相手にされず、これが認められたのは彼の死後でした。つまりメンデルは生きている間はこの大法則の発見者という名誉を受けなかったどころか研究者としては失格の烙印を押されて亡くなったのです。
もうひとつ、電気物理の基本法則で中学の理科では(もしかしたら小学校の理科かも)誰もが習ったはずのオームの法則もそうでした。オームがこれを初めて唱えたときも最初は否定的でした。ただ、オームの場合は生きている間にこの法則が認めらましたので、メンデルに比べたら幸せであったと言えます。いずれの法則もシンプル過ぎたのでいくつかの例外事項の存在を説明できなかったこともすぐに認められなかった原因という説もあります。
日本にも同じような話があります。脚気という病気、今はほとんどお目にかかれませんが、この病気、江戸時代から恐れられていて、特に明治以降は軍隊内で多数発症したためその克服は国家的な課題でした。この病気の原因がビタミンB1不足にあることを最初に示したのは鈴木梅太郎でした。ただ、今からみれば大発見といえることですが、当時は彼が学会等で発表した際にはすぐには認められなかったそうです。戦前と現代では食料事情が著しく異なりますので、今はほとんどお目にかかりませんが、この病気絶滅したわけではありません。インスタント食品やファーストフードの普及により栄養のバランスが崩れ、結果脚気になる人がたまにおられます。昔ならすぐに診断がついたはず、でも現代では見たことがない病気に医師が翻弄され、正しい診断にたどりつけないことがあるそうです。なくなったはずの脚気が現代病としてよみがえる、まさに歴史が繰り返されたのです。

さて、STAP細胞です。この細胞100年後、どうなっているでしょうか。当然忘れられているでしょう。でも、もし、”歴史が繰り返されたら”本当はあったんだ、という話になっている可能性ゼロではないかもしれません。確かに現在、STAP細胞を肯定する証拠はひとつもありませんが、最近ちょっと流行った言葉で”第三者の厳しい目”でみた場合その存在を完全に否定できると言い切れる科学者ははたしてどれだけおられるでしょうか。”いやいやそれはお前の希望的観測にすぎない妄想だよ、いつから小保方シンパになったんだ?”と突っ込まれるかもしれませんが、将来、何かちょっと手を加えるとうまく再現できたとしたら、未来の日本人は今の日本人をどう語るでしょうか。興味深々なのです。そして、誰かがワイドショーでつぶやいているはずです”歴史は繰り返す”と。