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副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
コーヒーがいいみたい
2016年7月4日 つぶやき87
通勤の途中にある喫茶店の窓ガラスに最近、コーヒーが健康にいい、コーヒーを飲みましょう、というポスターが貼られていました。確かに最近の医学的な研究でもコーヒーを飲むと生存率が上がるというデータも示されていますので、これは前回のSTAP細胞と違って本当の話といっていいかもしれません。

以前からコーヒーが大腸がんを抑制するという話はありました。それで効果的にコーヒーの長所を生かすにはチマチマ口から飲んでいても効率が悪い、いっそコーヒーで浣腸する方がいいというブラックな話も医師の間ではあったものです。まあ、そこまでしてまではお勧めはしません。あくまでコーヒーは飲むものですから。

心臓とコーヒーの話では最近、久留米大学医学部教授の足達先生の研究の中に日常的なコーヒーの摂取量が増えれば増えるほど、心臓の脈拍数が落ち着き、生存率も上がるというものがあります。できれば1日コーヒーを300ml以上飲むのがいいとのことですが、300mlといえば、ほぼ4杯くらいでしょうか。コーヒーを習慣的に飲んでおられる方なら朝に1杯、昼の食後に1杯、三時のおやつに1杯、そして夕食後とそれほど、無理して飲まなくてもいいくらいですので、習慣的に、つまり長期に、飲むことができる量だと思います。

いくらコーヒーがいいと言っても、誤解があってはいけませんので、あえて言いますが、1週間か1か月くらいの短い歳月、コーヒーを飲んだからと言って効果が得られるものではありません。少なくとも5年~10年というスパンが必要です。数年前でしたか、京都大学の先生がトマトが体にいい(具体的には血液中の脂肪増加を抑える効果がある)という研究発表をされて、それをなぜかマスコミに大々的に取りあげられたことがありました。その結果、スーパーから短期的にトマトジュースが消えるという事態に陥りました。いくらいい食べ物でも短時間にたくさん食べてもあまり効果は得られません。短期間でいい効果を得たいなら食べ物では難しいですし、そこは薬に頼るしかありませんが、効果のいい薬には必ず副作用が伴います。食べ物のいいところは副作用がほとんどなく、いい効果が得られるところです。ただ、そのためには長期の摂取が必須なのです。

さて、話を戻しましょう。コーヒーの効果として、心臓の脈拍が落ち着くことで寿命が延びる、と述べましたが、心拍数と寿命には相関があることは、以前から指摘されています。安静時心拍数が高い動物ほど、寿命が短いというものです。その根拠として引き出される事例としはてネズミ(ハツカネズミ;英語ではマウス、そうミッキーマウスのマウスです)は心拍数が500~600で寿命は2年ちょい、一方象は心拍数が30程度で寿命は100年弱と言われています。おおまかな計算ですが、哺乳類では心臓は約15億回打つと停止すると言われています(残念ながら科学的明確な根拠はありません)。ですので、人でも日常の脈拍数が少ないと寿命が延びるかも、という理屈です。ストレスがあると交感神経が興奮し、イライラ感とともに脈拍は上昇しますので、ストレスが寿命を縮めるという理屈が成り立つのです。ここでちょっと計算をしてみます。心拍数はおおよそ15億回で終わり、人の安静時の心拍数はおおむね70~80ですので、これを元に計算しますと人は35~40歳くらいで死亡することになってしまいます。もっとも子供のころの心拍数はもっと高いのでそれを考慮するともう少し寿命は短くなります。でも、おかしいですよね。人の寿命、今は80を超えていますので現実とは合いません。でも、縄文時代の平均寿命は30くらいだったと言いますし、江戸時代でも30~40歳、日本人の寿命が50歳を超えたのは戦後です。つまり、人の寿命が心拍数15億回はまんざらでもないのです。この差がいわゆる医学の進歩に伴うものであることは言うまでもないでしょう。

本院は循環器の専門病院で毎日の外来にもたくさんの患者さんが来られますので、診察や検査までの待ち時間は大学病院なみです。いろいろ改善へ施策を練っていますが、目に見えるところまでは来ていません。その点は患者の皆様にはご迷惑をおかけしているとお詫び申し上げます。幸い、病院の横には喫茶店が2つあり、いずれも結構おいしいコーヒーを提供してくれます。時間が空いた時などはそちらで時間をつぶしていただければコーヒーの効果も得られて一石二鳥と思います(念のためですが、喫茶店からは宣伝費を頂いておりません)。ただ、医師から絶飲絶食で来てください、と言われている場合はくれぐれもコーヒーは診察や検査終了後でお願いします。”絶飲”でお願いしたところ、”水が駄目と言われたので朝はコーヒーにしました”と言われたこと、医師になって35年、何度かあります。釈迦に説法ですが、何も飲まないで、食べないで、という意味です。