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副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
睡眠
2017年7月10日 つぶやき99
 梅雨本番です。この後には暑い夏が控えています。また寝苦しい夜が来ますが、今月はその眠ることです。元ネタは先月の6月18日(日)午後9時からのNHKスペシャル”睡眠負債が危ない”から。この番組を見られた方には重複しますが、まずはその内容の復習からです。

 人間には十分な睡眠が必要です。これは誰もが疑わないことでしょう。適切な睡眠時間はどれくらいか?もちろん個人差はありますが、おおむね7~8時間というところです。そうはいっても”いやいやオレは5時間でも十分”と言われる方もおられるかもしれませんし、寝たいけど仕事があるので現実的には無理、という方もおられるはずです。少々の睡眠不足であれば、翌日しっかり睡眠をとればそれでいいのですが、慢性的に睡眠が不足するとたとえ週末に少々睡眠時間をとっても本人が気のつかないうちに脳や体にダメージが残っていく、それがひいては仕事の効率を落とす、注意散漫となり交通事故を起こす、そして癌の発病や他の大病につながる、といったリスクをかかえる。これを睡眠負債というのです。病気の中には自覚症状が乏しいうちにどんどん悪くなって気がついたら命にもかかわる事態になっていた、という話は珍しくありません。例えば高血圧、これはサイレントキラー(沈黙の殺人者)という異名があるのですが、高血圧だけでは熱が出るとか咳が出るとか、下痢になるとかの自覚症状はありません。ところが、突然心筋梗塞、脳卒中、大動脈瘤破裂などの命にかかわる病気を引き起こします。糖尿病もそうです。血糖値が高い事は血液検査をやらないとわかりません。ちょっと体調が今一つだな、というくらいの自覚はあるかれませんが、それは糖尿病に特異的ではありません。糖尿病を長年放置しておくと腎臓がやられて透析、目の網膜がやられて失明、心臓の血管がおかしくなって心筋梗塞、とありがたくないことばかりです。これら同様、睡眠負債も長期的にみると実際の病気(例えば癌とか心臓病とかです)が起こるリスクが高くなることは医学的に証明されています。また、大きな病気にまでは至らなくても仕事の効率が知らず知らずのうちに落ちていくことだけでも十分ありがたくないことです。

 睡眠が足らないとそれは頭への影響のみならず体のパーフォーマンスにも影響します。これはテレビでも取り上げられていましたが、興味深い研究にスタンフォード大学バスケットボール部(セミプロレベルで強豪です)での実験があります。バスケット部の学生に普段より長く10時間の睡眠時間を取ってもらう、そしてシュートの成功確率が上がるかどうか、という研究です。もともと強豪校ですので、彼らはフリースローなら10本中8本、スリーポイントシュートなら15本中10本くらいは入るレベルです。最初のうちは何の変化もありませんでしたが4週間後、フリースローでは0.8本、スリーポイントシュートでは1.4本入る本数が増えたと言います。ついでですが、この研究後、もとの睡眠時間に戻ったら、シュートの成功本数は元の木阿弥になったとのことです。つまり十分な睡眠時間の確保はスポーツをなりあいとするアスリートにとっても重要な意味があることを示しています。プロ野球の選手は調子が悪くなるとお酒を飲んで憂さ晴らしということがあるようですが、阪神タイガーズの選手にはそんな暇あったら家に帰って寝てろ、医学的にはその方が調子が良くなるよ、と言いたいところですね。最近の広島カープの強さは巨人の弱体化とともにいろいろとその原因が議論されていますが、一度各球団の選手の睡眠についても調査しても面白いと思います。広島には東京の銀座や大阪の北新地のような大きな繁華街がないのもいいのかもしれません。

 よく眠りが深いとか浅いとかいいますが、睡眠は深い部分と浅い部分を何度か繰り返して最後は浅い眠りから覚醒します。専門用語ですが、浅い部分をレム睡眠、深い部分をノンレム睡眠と言います。最初の寝つきのところですが、ここで一気にノンレム睡眠になります。実はこの最初に来るノンレム睡眠が一晩の周期の中のノンレム睡眠の中で一番深い眠りであることが分かっています。眠ること=休息、と考えるか方も多いと思います。確かに睡眠は体と頭の休息をもたらします。でもそれだけではないのです。特に最初のノンレム睡眠は重要で、深い眠りは成長ホルモンの分泌を促します。成長ホルモンといえば、子供が大きくなるのに必要なもの、と思われるかもしれませんし、それは間違っていないのですが、大人にとっても不可欠なホルモンです。成長ホルモンの分泌は体内の代謝を亢進しますので、筋肉質な体作り、言い換えれば太りにくい体作りに必須なのです。逆に睡眠が浅いと十分な成長ホルモンがでないので、代謝が進まず、体重が増えてしまう、つまりダイエットには大敵といえます。もう一つ、最初のノンレム睡眠がもたらすものに深い眠りが記憶力の定着を促進します。脳は休んでいるはずが、実は働いているのです。ですから、受験生は寝る前に英単語などの暗記モノを頭に叩き込んでさっと寝るのが医学的見地からは一番効率のいい暗記方法といえます。このことは少し前に流行った受験コミックの”ドラゴン桜”にもありました。

 さて、眠りとは話が異なりますが、先月の”つぶやき”の冒頭での取り上げました藤井聡太四段、7月2日の対局で敗れて30連勝とはいきませんでしたが、連日マスコミで取り上げられ、将棋を知らない人でも名前は知っていますという大活躍でした。天才と呼ばれる藤井四段ですが、彼の睡眠時間はどれくらいなのでしょうか。興味あるところです。