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副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
文武両道
2017年8月3日 つぶやき100
 日本の夏本番、暑い日が続きます。夏休みに入ると通勤電車に多くの高校生と思える集団が乗り込んできます。彼ら(彼女ら)が持っているバッグから○○高校の**部というのが分かります。夏休みは彼らにとっては試合と練習に明けくれる、まさに青春そのもの、40年以上も前の自分もあれくらい真っ黒に輝いていたのかなあ?そんな思いがよぎります。その中でも高校野球は日本の夏の風物詩、今は各地方予選からの情報もたくさん入ってきます。中には甲子園本番よりも地方予選の方にドラマがある、という方もおられますが、私もそうだと思います。

 甲子園にたどりつける高校といえば、その多くは野球の強豪校と言われる高校です。阪神タイガーズがいわゆる暗黒時代で最下位が定位置であったころ、桑田、清原を擁するPL学園の方が強い、と揶揄されたものです。それくらいあの時のPLは強かったし、今の強豪校もセミプロといってもいいくらいのところはたくさんあるとは思います。そんななかでいわゆる進学校が甲子園に出ようものなら、日本人の判官びいきも手伝ってマスコミは大騒ぎとなります。そして決まり文句のように出てくるのが“文武両道”です。進学校の厳密な定義は難しいですが、入学試験の偏差値が高くて、一般に世間からそのようにみられている高校と言うくらいのあいまいな言い方の方がいいかもしれません。高校野球では夏の大会はどこの強豪校もそれなりに仕上げてくるので、勉強もやりつつとなるとなかなか厳しいものがあります。さらに暑い中の連戦となるので体力と選手層の厚さがものを言います。その点、春の選抜は前年の秋の新人戦が選考対象ですので、強豪校といえども準備は万全とはいえません。また、試合は毎週末に行われるうえ、気候も夏に比べたら数段楽ですから体力に劣る進学校でもいい投手がいればチャンスはあると思います。さらに選抜では21世紀枠という特別枠があります。今年の選抜では京都の洛星高校がその選考対象となりました。残念ながら補欠となり甲子園はなりませんでしたが、選考対象になっただけでも快挙と言っていいと思います。地元大阪の事情はもっと厳しいものがあります。昔は浪商、PL、北陽、近大付、興国、上宮、今は履正社、大阪桐蔭と有数の私学がひしめき、公立を含めた進学校にはほぼno chanceです。私の記憶では大阪府の進学校の甲子園はさかのぼる事、昭和59年春の選抜の三国ヶ丘高。このころは21世紀枠などないですから、文字どおり実力での出場です。最近の夏の大会で一番惜しかったと思えるのはそれより前の昭和50年の夏、茨木高校のベスト4。昭和50年の私は実に高校3年生。この夏の大阪大会の一押しは阪神で活躍し、監督もされた岡田彰布さんが北陽(今は関大北陽)のエースで4番で主将でしたが、残念ながら決勝で甲子園を阻まれました。ただし、この夏の全国大会の一番の話題は当時東海大相模の2年生、前の巨人監督の原辰徳さん、昔話ですねえ。

 今年の夏の地方大会は終わりましたが、残念ながらドラマは起きませんでした。東大や京大や国公立の医学部に毎年100名以上の合格者を出す全国屈指の進学校で、勉強だけでも相当な時間が割かれる環境です。彼らが甲子園にたどりつくのは東大の医学部に入るよりはるかに至難の業といえます。

 高校のクラブ活動はもちろん勝負事ですので勝ち負けへのこだわりはあって当たり前ですが、その底流にあるのは教育です。私の長男は某進学校で野球ではなくサッカーに興じておりましたが、その顧問兼監督の卒部式の言葉は印象的でした。君たちの多くは3年間頑張ったけどレギュラーにはなれなかった。でも、君たちにとってのレギュラーポジションは高校のクラブではない。本当のレギュラーポジションは社会にあるはずだからそれを奪ってほしい。そのためにはこの3年間の悔しい思いが糧になると。高校球児の中でプロだけでなくアマでも野球で食えるのはほんの一部です。文武両道を目指した球児にとっては本当の闘いはこれから。まずは冬のセンター試験に向けて、そしてその後の人生でも高校のクラブ活動で培った不屈の精神で頑張ってほしいと願うものです。