メニュー
副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
ヒューマンエラー
2017年9月7日 つぶやき101
 9月のつぶやきはサッカーのアジア最終予選の大一番オーストラリア戦を見てからと決めていました。久しぶりに見るいい試合でした。誰もがこれほど日本がオーストラリアを圧倒するとは予想しなかったはずですし、私も運があれば勝てるかなという程度でおりました。前半に相手のシュートがポストに当たるという危ないシーンがありましたが、それ以外は全く危なげなかった。きっちり前線からプレスをかければ、相手も容易にはボールを運べないし、攻撃もうまく組み立てられない、という理屈を実戦で見事に証明した試合でした。文句なしのハリル監督のベストゲームといえます。今後の日本が世界で戦うべき一つのスタイルを見せてくれたと思っています。本戦を楽しみにしたいと思います。

 9月に入り、さすがに暑さも峠を越した感があります。毎朝のワンコの散歩(午前6時前後です)の外気のひんやり感に忘れかけた安ど感があります。でも、この夏は本当に暑かった。病院内は冷房が効いているのでまだいいのですが、一歩外に出ると暑さと湿気で一瞬頭がボーとすることありました。しかし、夏がどんなに暑くなろうと炎天下の中でやってこその夏の風物詩は夏の甲子園です。今年もなかなか見どころのあるゲームが多かったです。一番印象に残った試合、おそらく多くの方があげるのではないでしょうか、大阪桐蔭と仙台育英の一戦です。得点は1-0、9回2アウトランナー1塁2塁、一打同点、長打が出れば逆転サヨナラの場面で平凡なショートゴロ、誰もが打ったランナーが最後のセレモニーとして高校野球に定着したヘッドスライディングをして試合終了と疑わなかったそんなシーンで、“まさか”が起きました。1塁手がベースを踏んでいなかった。そして踏みなおしたときにはヘッドスライディングをしたランナーの手はすでにベースをとらえていました。すぐにスローVTRが流れましたが、確かに最初は踏んでいないし、踏みなおすより前にランナーの手は届いていました。ゲームセットのはずが2アウト満塁、冷静になればまだリードしている、次の打者を打ち取ればいいと客観的にはいえますが、そんな状況ではプロでも冷静になれというのは無理でしょう。フォアボールも出せない(1人出しても同点ですが、そんな余裕無理でしょうね)状況ではストレートでストライクを取りに行くしかない。それを痛打されて劇的な逆転サヨナラとなりました。この1塁手のベース踏み忘れがその後ネットで別の観点から話題になっていました。1塁手の中川君、7回の守備でランナーと交錯して足を痛めていましたので、それが踏み忘れの原因か、と。さらにその交錯したランナーが故意に足をけったように見える、とう陰謀説まで拡散していました。この情報化社会の拡散の早さは本当に恐ろしいものがあります。その状況下で翌日の準々決勝では仙台育英がその選手をスタメンから外しました。もちろん表向きは別の理由、でもそれを素直に受け止めた人は少数ではないかと思います。情報化社会がゆえのちょっと切ない話ですし、一昔前なら考えられないことです。

 さて、話を戻してその1塁踏み忘れ、なぜ忘れたのでしょうか。私は本人の中川君が否定したようにけがの影響はなかったと思います。実は私も高校時代は1塁手で1塁を踏んで捕球するという動作は毎日何度も練習しますのでいわば体が覚えているものです。少々足がけがしていても足がマヒするくらいの大けがなら別ですが、何も考えなくて動くものです。さらにあの甲子園の大舞台、体からは多くのアドレナリンと内因性鎮痛物質(麻薬によく似たものです)が出ていたはず、おそらく試合中に痛みはそれほどなかったのではないかと推察します。ただ、そこは人間のやることです。毎日、何度も正確に繰り返していたことでも何万回、何十万回に1回、ミスをすることはあるのです。人は完璧ではない、必ずエラーをするもの、それが本当に運の悪いことにあの場面で出てしまった。おそらく中川君はこれまで一度も踏み忘れなんかなかったのではないでしょうか(ちなみに私は高校時代に踏み忘れはなかったですよ)。でも、いつかは起こるのです。それはロボットではなく人間が故と言えます。中川君は新チームの主将になったと報道されていました。苦い経験があと1年の高校野球や今後の彼の人生で生きることを祈りたいです。

 人は必ずミスを犯す。これは医療安全を行う上での大前提なのですが、くしくもあの場面をみて思い出していました。ミスを完全になくす努力は不可欠ですが、人間であるがゆえにミスを皆無にすることは不可能、ならば、それをみんなでカバーして大ごとにならないようにする、それが医療安全の基本です。でも、野球などのスポーツではひとりひとりの役割があってダブルことがなければ、カバーできないミスも生じますし、それで試合に負けてしまうこともあるわけです。医療の現場では過去にカバーしきれなくなるいくらいのエラーがありましたし、マスコミも大々的に報道しますので隠し通せる時代ではありません。今後はそんなことが起きないように、起こる確率をこれ以上なくゼロに近づけていくように日常の訓練を行っていくしかない。改めてそんな思いを感じたこの夏の甲子園の一コマでした。