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副院長のつぶやき
副院長 林 行雄
西郷どん
2018年8月6日 つぶやき112
 今年の大河ドラマも半分以上が終わり、ようやく幕末の末期、激動の歴史に踏み込みました。今年も視聴率という目から見るとあまり芳しくないですが、ここからが徳川幕府打倒に向かう日本史の一大トピックスですので、NHKとしても大いに挽回を期待している事でしょう。大河ドラマが一世を風靡したころに比べれば娯楽が多様化した昨今で以前のような高い視聴率というのは夢物語といえます。それでも幕末、薩摩という2つのキーワードを並べれば宮崎あおい主演の”篤姫”を思い起します。ちょっと前の話と思っていましたが、2008年の作品でもう10年、一昔の話。歳をとると10年前の篤姫が昨日のように思え、当然のことながら時間の間隔がひどく鈍ります。

 今年の”西郷どん”は視聴率が低迷しているものの、私個人的には作る側の意図が見える作品だと思っています。大河ドラマは通常歴史上の人物に焦点をあて、ある程度は史実に基づいた演出がなされているものの、主人公の描き方は所詮ドラマですので、一定の脚色は避けがたいところです。今年の西郷どんでは国を憂い、人を思う西郷が人として成長し、そして人としてあるべき理想像に重なっていきます。それがゆえに西郷という男が老若男女を問わず皆を魅了したんだ、という意図が感じられます。ただ、それが長いというか、ちょっとしつこくて、7月の終わりにやっと”禁門の変”にたどりついたか、という思いです。また、あの禁門の変やその後の長州征伐の西郷はあまりにかっこよく描きすぎていてやや滑稽でもありました。みなさんのご存じのとおり、明治維新後、西郷は朋友の大久保利通やともに討幕をした方々とは明治政府の方針で対立し、政府を離れ、故郷の鹿児島に戻ります。その後西南戦争が勃発、彼の立場はいわゆる”朝敵”となります。どんなかっこいい朝敵を描くのかがこれからの私の興味です。江戸幕府を倒すまでの西郷はいくらでもカッコよく描けますが、明治維新後はどうでしょうか。幕末以上に激動の明治初期に国を憂い、人を思う西郷像は簡単ではないと思いますが、それゆえに楽しみでもあります。まさかではないですが、江戸城無血開城が今年のクライマックスで後のことはナレーションだけで終わってしまう事のないようにはしてほしいです。

 大河ドラマで扱われる人物で無難なのはその時代のヒーローです。その最たるものが秀吉であり、義経であり、忠臣蔵の大石内蔵助だと言えます。事実、秀吉や義経や忠臣蔵は複数回大河ドラマに登場しています。NHKの発表によると2年後は一番人気の戦国時代ですが、なんと明智光秀を取り上げるとのこと。彼は一般的にみてヒーローでとは言いがたいです。彼が統治した京都の福知山では今なお当時の治世を偲んで多くの人々に慕われているとは聞きますが、全国的に見たら主君を裏切った歴史上のナンバーワンクラスの悪役です。私の母は戦前に日本の歴史を習った世代で、”今となってはほとんど覚えていないけど後醍醐天皇に逆らった足利尊氏と明智光秀がどうしようもない歴史上の極悪人と習ったことだけはよく覚えている”と言っておりました。それほど根付いた日本の悪役を取り上げるNHKの勇気にまずは拍手ですね。でも、最近光秀の評価が以前のような裏切り者で極悪人というわけではなく、本能寺の変はやむにやまれぬ彼なりの国を憂い、人を思う事情があった謀反だったという説もあります。その説についてはこの”つぶやき”でも3年前の8月と9月に取り上げました。大河ドラマの主人公をいわゆる歴史上の悪役にするのはあり得ない選択肢ですが、そこは主人公ですからそれなりに光秀を評価した描き方になるはずです。でも、もしすると “このドラマは根本的におかしい”と言う非難がネット上にあふれるかもしれません。まだまだ先の話ですがドラマの内容のみならず聴衆の反応も含めて、楽しみにしています。ただ、2年後となると”俺は元気で生きているか?”という冗談がジョークでなくなる可能性、やはり歳は取りたくないものです。