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外科
外科(および消化器科)について
当院は循環器専門の急性期病院です。入院中あるいは外来通院の患者様に消化器診療の必要性が少なからずあるため、大阪大学より派遣の消化器内科・消化器外科の非常勤医師と協力して一般の消化器疾患の診療を行ってきております。上部内視鏡(胃カメラ)、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)、バリウムの検査、腹部超音波、腹部CTなどの消化器関連の検査をルーチンに行なっております。また症例数は少ないものの胆石、ヘルニア、胃癌や大腸癌、肝癌などの消化器外科手術も行なっております。
本年5月には、新しく開発されたPENTAXの最新型の内視鏡システムを導入しました。上部内視鏡・下部内視鏡とも、i-scanといわれる強調画像モードを備えております。これは、通常の内視鏡では発見困難な平坦な早期癌病変炎症の強い部位(血流の多い部位)を検出しやすくしたものです。
鼻から挿入する胃カメラ検査(細口径の経鼻内視鏡検査)も行なっております。

強調画像モードとは(i-scan)
経鼻内視鏡について

内科的な消化器疾患の診断、治療に関して
1.循環器疾患と消化器検査-胃カメラと大腸内視鏡検査
循環器の患者様に消化器の検査や治療をする場合、かなりの細かい配慮や丁寧な操作が大切になります。ちょっとした刺激で心室頻拍などの命にかかわる不整脈発作を起こす患者様や、狭心症や大動脈瘤の患者様に、胃内視鏡検査(胃カメラ)をすることを考えてみましょう。
胃カメラ時に 『えづき(嘔吐反射)』があると、不整脈の発生、狭心痛、血圧の上昇による動脈瘤の破裂などを心配しなければなりません。安全に胃内視鏡検査を行うために 『えづき』に対する工夫・対処が重要となります。
胃カメラと同様に、大腸カメラ(大腸内視鏡検査)でも、不快感や強い痛みを経験された方がおられると思います。これらは循環系に悪影響を及ぼす恐れがあるだけでなく、検査に対するトラウマや拒否につながります。そのため、当院では胃カメラや大腸内視鏡検査の際には苦痛や痛みができるだけないように対処しております。
なお、当院での年間の胃カメラの施行数は約350例、大腸内視鏡は100例前後です。

胃カメラがなぜ苦しいのか
楽な胃カメラ検査(苦しくない胃カメラ検査)

2.血液をサラサラにする薬
循環器疾患の患者様の場合、血液をサラサラにする薬(すなわち、血を止まりにくくする薬、医学的には抗血栓薬と称します)を服用されている方が多く、これが内視鏡検査時に問題となります。抗血栓薬を服用している場合、えづきや内視鏡の手技による擦過(こすれ)で出血しやすいため注意しなければなりません。特に大腸内視鏡では、内視鏡を何回か腸の中で回転させるため、上部内視鏡以上に注意が必要となります。胃腸の生検検査(顕微鏡の検査を行なうため、組織を小さく摘み取る検査)によって、採取した部位からの出血が止まらなくなる可能性も考慮しなければなりません。もちろん血が止まらない場合、内視鏡を用いた止血手術を行うことになります。
抗血栓薬のなかでも、投与されることの多いアスピリンやその類似薬は、血管病変を改善させる効果が高く、心臓の血管をバルーンやステントで広げた後に投与が開始されるのが普通ですが、胃腸に潰瘍や炎症を来たし出血を起こすことがあり、このような場合には薬の中止・治療が必要となります。
実際の現場においては、血液をサラサラにする薬を開始したところ、胃や大腸からの出血や貧血が始まることがあります。そこで調べたところ、薬の投与前には無症状でわからなかった胃や大腸の癌や潰瘍といった病気が見つかることもあります。
内視鏡検査による出血が怖いからといって、血液サラサラの薬を早くから中止し、薬の効果が完全に切れてから検査をするのは望ましくありません。狭心症や心筋梗塞、脳梗塞を起こすかもしれないからです。そのあたりのさじ加減が難しく、患者様の病状を見て判断する必要があります。
血管や心臓に優しいお薬は、胃腸に優しくないわけです。循環器の疾患を抱えた方は、消化器内科医にはやっかいな患者様である訳です。

大腸内視鏡で痛い思いをされた方は多い
大腸内視鏡の挿入(えっと驚く実際のビデオ)

消化器の外科手術に関して
1.基本的な外科のスタンス
当院では、通常の 開腹手術のみならず、 腹腔鏡手術も行っております。しかし、基本は循環器の病院であり、消化器のスタッフも少ないため全ての消化器疾患を当院で手術することは困難です。患者様にとっても、消化器疾患のスタッフがそろった病院で手術を行う方が有利と考えます。そこで手術の適応となる場合、病気の程度と循環器疾患により、 (患者様の希望もふまえて)できる限り適切と思われる病院に紹介しております。勿論、状況に応じ、当院で手術することもあります。
当院で行っている全身麻酔による年間手術症例数は約40例です。

2.循環器疾患と消化器外科手術
循環器に問題を抱えた患者様の消化器外科の手術を施行する上で問題となるポイントは主に3点です。① 血をサラサラにする薬の服用、② ペースメーカー 植込み式徐細動器(植込み型の電気ショックの器械)が体内にある場合。③ 心臓のポンプ機能が低下している場合(低心機能)であります。①~③が重複するほど厄介です。
手術の際には血をサラサラにする薬の効果が切れていないと手術はできません。血をサラサラにする内服薬は中止してもすぐに効果が切れないため、数日前から薬を止めることになります。血が固まりやすくなるため、手術の前後には血をサラサラにする特殊な点滴を投与するなどの工夫が必要です。血液が固まることによる合併症を恐れるあまり、手術後早い時期に血をサラサラにしてしまうと、血が止まらなくなり止血手術が必要となることがあります。血をサラサラにする薬と外科手術、特に消化器外科手術は相性がよくありません。
ペースメーカーや植込み式徐細動器が体内にある状態では、手術中の電気メスの使用が問題となります。現在の手術では電気メスは必須ですが、電気メスを使用すると体内に電流が流れます。この電流を心臓の収縮による電流(心電図)と誤って判断し、ペースメーカー機能が停止する可能性があります。あるいは、これを重症不整脈と誤感知して心臓に電気ショックを与える恐れがあります。このため、手術前に、あるいは手術中に器械の設定・機能を変更する必要があります。
最も難しい問題は③です。通常消化器手術の後は、絶食の時期があります。この期間には、点滴で水分補給と栄養補給を行います。一般に消化器外科手術後は、全身の循環をよくするため、点滴は多めに行なうのが普通です。
点滴が多めでも、心臓の機能が正常であれば全く問題ありません。しかし、低心機能の患者様では水分が入りすぎると、簡単に心不全を起してしまい、手術部位の破綻が起こりやすくなります。逆に、水分投与が少なすぎると、循環不全や腎機能低下を来してしまいます。低心機能の患者様は点滴の投与量の許容範囲がせまいため、点滴投与量をコントロールし、かつ充分な栄養を投与することはかなり面倒です。
手術手技の面から考えてみましょう。例えば、大腸を取る(切除する)といっても単に取るだけでなく、残りの大腸同士をつなぐ手技が必要です。残った腸と腸を完璧につないだとしても手術は成功ではなく、つないだ腸同士が一つの組織のように引っ付いて初めて成功です。そのためには手術部位に充分な栄養素と酸素が運ばれなければなりません。栄養と酸素を運ぶのが心臓のポンプ機能であり、ポンプ機能が低下しているとつないだ部位が破綻しやすく、また回復が遅くなります。
つないだ部位が早期に破綻した場合には腸液や便が腹腔内にもれ、腹膜炎や手術創の化膿等を来たし、敗血症となり重篤な全身の消耗状態となります。ポンプ機能が悪い場合、この状態からの回復は更に厳しくなります。
長い手術時間も循環の面から考えると不利となるため、慎重かつ手際の良い手術が必要となります。循環器疾患を抱えた患者様は、消化器の内科のみならず消化器外科医にとっても厄介な患者様である訳です。

尚、心不全や手術目的で入院され、体力・筋力の低下から食事摂取(嚥下力)が低下された患者様も居られ、かかる患者様に対して、嚥下のトレーニングと体力(栄養状態)の向上の目的で、内視鏡下の胃瘻の造設手術(PEG)も行なっております。

消化器の病気に関して
当科を受診される患者様は、循環器疾患を持っておられる方が大半です。しかし、循環器とは無縁の患者様もいらっしゃいます。全ての手術・処置ができるわけではありませんが、ご相談にはのれるものと思います。
スタッフ紹介
副院長 馬塲 雄造
副院長
馬塲 雄造